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前回の話 一体どれほどの戦争の傷跡を海の底に刻めば、民間人が呑気にヨットを出して日光浴に励む風景が蘇るのか。 この根本的な議題は、頭の柔らかい提督を百人選抜して集合しようが結論は出ないだろう。 深海棲艦を沈めても同じ場所にまた現れる謎のメカニズムは、どのような手段を経て止めることができるか。 その真相は、直々に彼らに自白剤でも飲んでもらわない限りは藪の中……ではなく、珊瑚礁の中だろう。 まず彼らの殆どが人の言葉を発するのかすら怪しい。 先に述べたこれらの事は、全て確かめようのないことなので、自分一人の勝手な予想にすぎない。 未来を見据える事は大切である。 が、現在を見据える事は輪をかけて大切だ。 そこで自分は一旦、その遠い未来について考えるのをやめ、今を見つめ直そうと考えた。 その結果が、この夢なのかもしれない。 …… ………… …………………… 『北上さん? あ、提督、なんですか?』 なあ。 『はい』 お前とは、もうかなりの付き合いだよな。 『……そうですね』 お前の隣にいるのは北上だということはよく分かっている。 『…………』 空いているもう片方の隣に、私を置かせてほしいんだ。 『……提督』 うん? 『提督は、女心が分からないようで困ります』 え? 『提督は、北上さんと私の間にいなきゃダメです』 ……いいのか? 『北上さんも、そう望んでいます』 ……私は、北上にはお前と同じように接することはできないぞ。 『それでも、せめて、傍にいてあげて?』 ……分かった。 それで、だ。 『はい』 私とケッコンしてほしいんだ。 『……ごめんなさい』 …………。 『この戦争が終わるまで、待ってほしいの』 …………!! 『あっ……! やだ、提督、離し――』 いやだ!! 『提督……?』 いつ終わるか分からない戦争が終わるまでなんて待てない! 『…………』 すぐにでもケッコンしたいんだ! 頼むよ、大井。私と―― …………………… ………… …… 「結婚、してくれ……」 「……!」 どんっ。 「ぐあっ!」 この日は、胸を強い圧迫感で押されてベッドに背中を叩きつけられ、 少しの間呼吸が止まり、息苦しさに耐えられず目覚めるという最悪の朝から始まった。 一生懸命に酸素を取り込もうと動く肋骨の中の暴れ馬を鎮めようと、思わず伸ばしていた手を胸に当てた。 ……はて。自分は何故両手を伸ばしていたんだ? 「……て、提督! 着任時刻を過ぎてます! 早く起きてください!」 ……嗚呼、この声を聞いて思い出した。 その瞬間、つい先程まで見ていた夢を覚えておかなければ、という謎の使命感によって、 自分の意識は急速に覚醒状態まで引き揚げられた。 その甲斐あって断片的ではあるが、夢の中盤と終盤辺りの映像を脳味噌に新たな皺として刻むことに成功した。 それから、浅いレム睡眠の中、何とか言葉を発し、腕を伸ばして何かを捕まえるよう脳が無理をして命令していた記憶もある。 そこに大井がいたという事はもしや……。 夢の中にしてはあの大井の抱き心地はやけにリアルだと思ったが、合点がいった。 寝ながらにして体を動かす体験をしたのは初めてかもしれないな、としんみりするのも束の間、 ベッドサイドテーブルの目覚まし時計を見てみると、確かに普段起きる時間よりも数十分過ぎていた。 起床時刻どころか着任時刻さえ過ぎるとは全く。 「……ああ、おはよう」 「おはようじゃないですよ、もう」 昼まで寝過ごしたような言い方をするな。まだ八時も過ぎていないんだから。 上体を起こして我に返り、一つ気になったことを投げかける。 「……さっき、私は何か言っていたか?」 「プロポーズの言葉を聞きました」 やってしまったのか。 そういうものは実行する時まで取っておきたかったのに。 いい夢かと思ったらそうとも言えない夢を見て、うっかり寝過ごし、あまつさえまだ秘密にしておきたかったことを漏らす。 今日は厄日か。開発任務も碌な報告にならないかもしれない。 朝から早々、気分が大破した。今の自分はとても迷走している。わざわざ重い頭を上げて大井の顔を伺う余裕もない。 それが原因で、無意識に追い出すような言葉が零れた。 自分が驚くほど声量も小さい。 「……起こしてもらってすまんな。少し一人にさせてくれるか」 「……はい。急いでくださいね」 ……良くない事ばかりだ。 それからこの部屋には、分かりやすく落ち込んだ男がベッドに腰掛けて頭を抱えるという、とてもつまらない静止画が数分程映った。 いつまでもうじうじしていないで、寝巻から軍服に着替えて軍帽を被り、 さて洗面所に行くかと寝室から執務室へ出たが、執務室に大井や紙の束の姿はなかった。 畳に置かれた炬燵は電源が入っておらず、寂しさを演出させる。 提督が寝坊していては秘書もやる気をなくすという意思表示か。 大井がそう思っても仕方あるまい。 どこへ行ったのやら。 洗面所にて排泄と歯の掃除を行い、栄養を取るべく真っ先に食堂へ向かった。 この時間の食堂は席の半分ほどが埋まっている。 真面目な物からフランクな物まで、幾つか飛んでくる挨拶に一つ一つ返していきながら、カウンターの間宮に一膳頼んだ。 間宮はやはりにこにこしていた。 そこまでは普通だった。 「あ、提督さん。大井さんはあちらのテーブルにいますよ」 ここ最近発動させる間宮のこのようなお世話には、喜んでいいのか困るところなのか、とても判断に困る。 結局困ってるじゃないか、とのツッコミは、空母がボーキサイト消費を躊躇って艦載機を飛ばさなくなる気遣いよりいらない。 どこへ行ったかと思えば、まさか食堂だったとはな。 少し遠い、食堂の真ん中に近い辺りに大井はいた。よく見れば北上も同席している様子。 頼んだ料理が出来上がるまで奴らの様子でも見ていようかと近づいて行った。 北上はこちらに気づいたが、向かい合う大井は背中を向けていてこちらに気づかない。 「あ、提督」 「……ふふ、北上さん。もう騙されないわよ」 大井は料理に向かって何を言っているんだ? 声をかけようとしたが、北上のしーっという手振りでそれは躊躇われた。 それに従うように、周りの席の艦も黙り、熱心にこの席を見ているのが異様だ。 大井は周りが見えていないのか、箸で料理を突つくだけ。 北上は話を続ける。 「もう引っかからないかあ。あ、そうだ大井っちさ。提督のどういうところに惚れたのか聞かせてよ」 「ええ!?」 おい朝からこの大衆の中何という話題を振るんだ北上よ。 面白そうだから続けろ。聞いてみたい。 それから声を上擦らせて顔を上げた大井よ。何故周りの異変に気づかない……。 その注意力の散漫が戦場では命取りになるんだぞ。 ほら、食事の手まで止まっている。 「ど、どういうところって言われても……私……」 「えー言っちゃいなよ。誰にも言わないからさ、ね」 確かにこの状況ならお前がわざわざ言いふらす必要もないな。 壁に耳あり障子に目ありと言うが、ここには壁や障子さえもない。 「……その、きつく当たっても態度を変えないでくれるところ、とか」 「ほう」 ほう。 「大事にしてくれるところ……かな」 「へえー」 うむ。私は大井だけでなく皆を大事にしているつもりだ。それが伝わっているなら提督として本望である。 大井のこれらのコメントには胸にじーんと来るものがあるな。 しかし、大井の科白はこれだけでは終わらなかった。 「それからね……さっき起こしに行ったら、抱きしめられて寝言で『結婚してくれ』って言われたの」 「えっ?」 これには流石の北上も唖然。 突然求婚について言及されるとは誰も予想できなかっただろう。自分もできなかった。 正直言ってあれはノーカンとしてほしい。 おい。お前ら私を好奇の目で見るな。見るならこいつらを見ろ。 夢というのはテレビを見ているようなもので、その中の自分は自分の意思で動かす事はできないんだよ。 この状況の手前、それを声に出す訳にもいかず、公開処刑は続けられる。 自分はどのタイミングで出ればいいんだ。誰か教えてくれ。 但し矢文等の危ない方法は使ってくれるなよ。特に一部の空母共。 「あと、夜の提督は――」 「おい」 それ以上いけない。 大井は割って入った私の声に大層驚いたようで、体をビクつかせて箸を盆に落とした。 箸が転んでも笑うと言う諺とはまるで無縁に、盆を転がる箸に構わずこちらへ素早く振り向いた。 それと同時か、あるいは一瞬早く、周りの艦は皆一斉に見るのをやめ、知らぬ振りを決め込む。 「って、提督!? いつからいたんですか!」 「……"もう騙されない"から」 「……! い、いるなら言ってください!」 「いやあ、でも――」 北上が、という責任逃れは、北上のニヤけたしーっという手振りによって憚られた。 最後のところはともかく、いい事を聞き出してもらったし、呑んでやるとしよう。 「――私も聞いてみたくて」 「…………!!」 おお、今補給している最中のはずなのに激務時のように顔が真っ赤だ。 面白い矛盾だな。 「う、海のもずくとなりなさいな!!」 落ち着け。お前今艤装つけてないだろ。 もずくじゃなくて藻屑じゃないのか。 宥めたところで、厨房から飛んできた誰のとも分からない彩雲に乗っかった妖精に、料理が出来上がった事を知らされた。 なんとも便利なものだ。 定食の盆を持ち、着座するのは一悶着起こしたあの四人用テーブルの席。 この二人もまた定食だったが、来るのが遅かった自分より既に半分ほど減らしていた。 早速自分も栄養補給を開始し、適当な話を振る。 大井。お前、ストライキを起こしたんじゃなかったんだな。 「……なんですか? 突然」 執務室に紙一枚見当たらなかったから、てっきり放り出したものかと思ったんだよ。 「私もまだ朝を済ませていなかっただけですから」 それなら、私が起きるのを待たないで食べてくればよかったじゃないか。 こう言うと、大井はぴくっと眉を顰める。 「はあー……」 ……北上。何やら言いたげだな、その溜め息。幸せが逃げるぞ。 「逃げたら裁判起こして提督に訴えるよ。あのさ、提督が起きるのを待っていた理由が分かんないの?」 大井が朝食を我慢して自分が起きるのを待った理由。 簡潔にこうまとめると、一つの答えが浮かび上がってくる。 半信半疑ながら、それを口に出してみる。 「私と朝食を摂りたかったから、かな」 「……気づくのが遅いのよ……」 大井は、そう言って箸で摘まんだ少しの米飯を口に運ぶ。 思い出したように不機嫌そうな顔をして文句を吐く声は小さなものだったが、自分にはよく響き、自分を悲しませた。 嗚呼、今日は朝から良くない事ばかりだ。全て自業自得と言えてしまうのがまた悲しい。 先は自分があんな事を言ってしまったから、大井は私と朝食を摂る事を諦めたのだ。 自分はテーブルに両手を付き、頭を下げて詫びを入れる。 やれやれ。自分は大井に謝ってばかりだ。 「さっきは変な事言ってすまなかった。機嫌を直して、昼も付き合ってくれないか」 「……昼だけですか」 「……良ければ夜も」 昼だけでは不満らしい。勿論こちらとしては夜も万々歳だ。 大の男が少女に頭を下げる事の何と情けない事。 非は自分にあるのだから、尚更機嫌を損ねる事のないよう、低い姿勢で許しを得る他ない。 「……ふふ」 少しだけ気分を良くしたようなこの声で、自分は頭を上げてみた。 そこにあるは馴染みの微笑。 「まあ、いいかな」 許してくれたのか。 しかし、以前から散々聞いてきた大井の説法は、今回も連撃の如く続く。 「提督は、そういうところ鈍臭くて困るんですよ。ほら、髭も剃ってないし。……時計も忘れてるじゃないですか」 「あ……、申し訳ない」 上から下までを眺める大井に、律儀に指でピッピッと指摘されて初めて気づく。 顎に手を当ててみれば髭は剃り忘れていて、左手首には錘となるものがなかった。 先程、大井の注意力は散漫だと大言を語ったが、こちらも提督の不養生だったようだ。 ふとそこまで考え、自分は懲りず先程の話を蒸し返す。 「って、鈍臭いのはお前も大概だろう。"夜の提督は"とか、お前は人の多い所で何を喋ろうとしたんだ」 「そ、それは……!」 「あー二人とも。今は、食べよう?」 いよいよ話の方向性が狂った羅針盤に導かれようとしたその時、苦笑いする英雄艦北上によって軌道修正された。 我に返ってみると、自分ら三人のうち北上だけが目の前の朝食の処理を進めていた。 足の引っ張り合いは後で幾らでもできるので、共々冷めかけている飯を先に掻き込むことにする。 「結婚してなくても充分夫婦だよ」 英雄艦という肩書きの進呈は撤回だ。やはりお前はハリケーン北上でいい。 むせ始め、言われなくとも自分で味噌汁を飲む大井は少しだけ成長したな。まだまだ練度は上がるようだ。 …………………… ………… …… 「提督、新しい仲間が艦隊に加わりました」 今日の演習の内訳と艦の名簿を並べて演習編成について熟考していると、大井が扉を開けてすぐそのような知らせを告げる。 毎日とまでは言わずともそれなりに耳にするこの報告だが、 少し嬉しそうにしていた以前と比べると、最近は義務的な部分が強調された調子に聞こえてならない。 大井にどのような心境の変化があったか、こちらが知る術はない。 「分かった。すぐ向かう」 まだ今日は建造の指示を行っていないので、内心では何時建造させた時のものか疑問だったが、 なるほど、秘書と共に工廠を訪れてみると確かに、艦娘用の大型建造ドックの傍に一人、見たことのない者が佇んでいた。 そういえば昨夜遅くに建造の指示を出してから音沙汰なく、自分も忘れて眠りについてしまったのだが、その時のものか。 とても用心深そうな表情で揺らぎなく直立不動する凛としたその姿は、 華奢であっても見る者全てに頼もしそうな印象を与えるだろう。 「あ……!」 印象通りの注意力を持っているらしいその者は、 まだこちらが充分に歩み寄っていないにも関わらず、こちらに気づいてぱたぱたと近寄ってきた。 上が寄越した必要資材と艦船の資料が正しければ、恐らく。 「君が新造艦だな」 「そう……私が大鳳」 この子がかつての海軍最後の正規空母の生まれ変わりという訳だ。 不沈空母という名に反した史実の不運さには目も当てられないものがあるが、打撃力はとても強いとのこと。 その声は、他を圧倒するようなものではなく、とても優しい色をしていた。 意識していないと顔から力が抜けそうだ。 「私が提督である」 「はい。出迎え、ありがとうございます。提督……貴方と機動部隊に勝利を!」 大鳳はそう言って、気を付けで敬礼の姿勢を見せた。 ううむ。この言動の何と勇ましいことか。 それに反して癒されるような声もあり、とても印象に残るだろう。 「良い心構えだ。今日これから何度か演習を行うが、やる気はあるか」 「はい! 充分に」 「良し。ではまず艦載機についてだが、……」 …………………… ………… …… 「まだ増やすつもりなんですか?」 大鳳に使わせる艦載機を指定してから、 大鳳建造の報告書作成や部屋の割当等の仕事のため執務室に戻っていると、大井は突然そう尋ねてくる。 これだけの問いかけから意味を汲み取る事はできず、聞き返すしかない。 「何を?」 「艦です」 艦娘の事か。 一日に何度も出撃を繰り返す事などざらなので、疲労という問題を解消するには艦娘は多くいる方が良いと考える。 そして今のところ、この鎮守府、もとい艦娘寮に空きはあるので……。 「ぼちぼち、な」 「…………」 黙ってしまった大井の顔を振り向いて伺ってみると、それは考え事をしているようで、あまり嬉しそうには見えない。 どの感情に属するのか迷っているような、複雑な表情、といったところか? 魚雷が失速して海底に落ちていくような状況を明るくできないかと考え、 試しに明後日の方向を向いて茶化してみる事にした。 「それにしても、あの子は随分と可愛らしい胸を――」 「提督」 ほんの戯言は、超弩級戦艦も威圧できそうな声によって、喉から出ききる前に殺され、足の動きを拘束された。 敵戦艦も怯えかねない迫力は、ただの人間である自分ならば失禁しても何らおかしくはないと言える。 軍人と言えども結局は人なのだ。 それでも自分は、起床後に膀胱の中身を排出していたのが功を成したかは分からないが、 みっともなく漏らす事なく、錆びた砲塔のようにぎこちないながらもぎぎぎと頭を回す事ができた。 そこにいたのは、艤装があれば本気で自分を討っていたのではないかと思える、雷巡改二フラグシップ級だった。 怒りの表現に笑顔を用いる事があると本でしばしば見るが、一理あると感心している場合ではない。 「裏切ったら海に沈めるって……言ったわよね?」 自分としてはそういうつもりで言ったのではないのだが、これはきちんと口に出して否定しておかないと後で殺される……! 「でも、提督のことはまだ信じていたいからやめておきます」 しかし、否定する前に大井の殺気はどこかへ引っ込んだ。 いつもの微笑を瞬時に取り戻したので、先程見た光景は幻覚だったのではないかとも逃避したくなる。 幻覚でも見たくないが。 自分は学んだ。冗談でもそういう事を話に出してはいけないと。 「……冗談だよ」 自分はそう締めて足を再び踏み出した。大井もついてくる。 "信じていたい"……、か。 割と本気で自分が目移りしないか不安がっているようなので、これからは控えよう。 不安にさせたくて茶化したわけではないのだから。 朝あんな事があったにも関わらず、まだ納得が行かないのか。 「もう、さっきまであんな調子だったのに」 第一印象は重要だからな。 初めて顔を合わせる時にへらへらしていては、その後はきっと侮られ続ける。 単に舐められていい気なんかしないというのも勿論だが、 いざ作戦遂行の際に指揮を聞いてもらえないような事があっては、 その艦だけでなく艦隊全体に危険が及ばないとも言えない。 それでもあの調子を保つのは息が詰まるので、大井や北上のように本性を曝け出せる存在もまた必要だ。 「……困りますね」 なに? 「それじゃ、私達がいなくなったら、提督は窒息しちゃうじゃないですか」 自分は立ち止まって大井の方に振り返った。 大井は少し俯いていて、こちらに合わせて立ち止まりつつ科白を続ける。 「提督が提督を続けられなくなったら、他の提督が着任するでしょうけど、 提督のように艦を大事にしてくれる保証はないでしょう?」 直接口にする事を避ける代わりに、淡く薄い笑みが縁起でもない事を物語っていた。 自分は見ていることができなくなり、怖いものから守るようその体を包んだ。 「あ……」 「口は災いの元、と言うだろう? 仮定でもそんな事を考えて良い事なんかないぞ」 本当は戦闘なんぞやめさせて匿いたい気持ちもあるが、それでは艦娘としては死を表す。 子供で欲張りな自分は、どうしても生命の存続と誇りの両方を取る事しか頭にない。 全くこいつは、臆病な本質をしている。 頭を撫でて、優しく言葉をかけてやるくらいじゃ安心してくれないかもしれないが。それでも。 「絶対に沈めてやらないから。そんな事言うのは、もうやめにしよう」 「……私が至らなくて、ごめんなさい」 それを言うなら、そういう事を考えさせてしまう自分の甲斐性のなさについて謝罪したいところだが、 それをやると堂々巡りになりそうだった。 一先ずは執務室へ向かう必要がある。まだ昼も回っていない。 少しは元気を取り戻してくれるといいんだが。 大井の肩を抱いて促し、自分らはゆっくりと歩き出す。 この際大井の気分が下がって執務ができなくても、一緒にいてやりたかった。 大鳳の事を放ってきてしまったが、大丈夫だろうか。 切りが良くなったら迎えに行くから、それまでどうか時間を潰して待ってほしい。 本来なら新たに鎮守府に配属した艦は上に報告しなければならないのだが、執務室はとても静かだ。 書類や筆記具は目前に置いただけで、それに手を付けようとも口を開こうともしないからだ。 電源を入れた炬燵に並んで浸かり、密着したこの状態が二十分は続いている。 寝ているんじゃないかと思い頭を横に回すと、偶に目が合うのでその心配はいらないようだ。 目が会うと、自分の事は気にしないで、と言うように表情を柔らかくするだけで、何も口にしない。 じっとこうしている間にも熟考を重ね、頭の中で演習編成を構成できたので、その旗艦に問う。 「……今日の演習、行けそうか?」 「もう大丈夫よ」 「良し、ならばもう少ししたら行くぞ」 「……うふふ。魚雷を撃てるのね」 戦闘狂の片鱗を今から現す大井に自分もにんまりしてから、 炬燵の上のマイクを引き寄せて呼び出し音を流し、内線を入れる。 「三十分後に出港し、演習を行う。以下の艦は、それまでに補給所に集まるよう。 旗艦、大井。随伴艦、北上、木曽、大鳳……」 頭の中の六隻の艦名を読み上げ、最後に内線を切って邪魔なマイクを遠ざける。 「……さて。それまで、こうしていようか……」 「……そうね……」 結局呼び出しておいた自分は、戦闘狂の血も一旦は鎮まった大井とぎりぎりまで肌を温め合う事に徹した。 自分らが最後に集まったのは言うまでもない。 木曽が苦笑している様子は眼帯をつけていても充分に分かるし、 北上がにやけ始めるのもまた見慣れてきたものだった。 …………………… ………… …… 勝利、戦術的勝利が続き、午前の最後の演習を済ませて帰投した時は、もう時針が真上を過ぎていた。 朝の約束通り、昼食も大井と頂く事になった。 北上も誘おうとしたが、北上は大鳳らと共に頂くからと遠慮され、少し離れたところで他の艦と着席していた。 自分も大井も北上を邪魔に思ったりはしないのに。 いや、これは北上以外なら邪魔だという意味ではない。大井はどう思うか分からないが。 醤油や生姜等の調味料で柔らかく焼かれた豚の切身を飲み込んでから、大井に話しかける。 「今日のお前は砲の不発が多かったな」 「む……」 大井は小さく唸って口を止め、しかしすぐに動かし始めた。 大井の御膳の鰻もうまそうだな。少しくれないか。 そう言うと、大井はちゃんと飲み込んでから返事を投擲する。 「交換ならいいですけど、提督の方には釣り合う物がないから嫌です」 お前、金銭の事なんか気にするのか。 その国産鰻が見えなくなるくらい高価な魚雷を脇目も振らず乱射するくせに。 「武器を出し惜しみして怪我はしたくないです」 きっぱりと言い切って鰻を一口含んだ。 勿論こちらとしても被弾しないのが一番なので、 敵を押し退けるのに弾をケチれというような、本末転倒な指揮をするつもりもなく箸を動かす。 正直な所、海域の制圧は命令されれば赴く程度の気持ちしかないので、戦闘に拘りはない。 ……話が逸れた。 えーと、大井の鰻を貰う話だったな。 「違います。鰻はあげませんから」 一切れでいいから、な。 不満なら豚の生姜焼きを半分やるぞ。食いかけだがな。 「要りません。……一口だけよ」 大井は結局手に持って遠ざけていた重箱を盆に置き直した。 鰻を箸で少しだけ切り分けているところを見て、我、妙案思い付くせり。 「……提督、口を開けてどうしたんですか。まさかとは思うけど……」 「あーん、だ」 「周りに他の艦もいるんですよっ」 少し声量を控えめにして早口でそんな事をのたまわれてもな。 大井は恥ずかしいのかもしれないが、私は大井に食べさせてもらいたいんだ、気にしないぞ。 さあ一思いにやるんだ。 「もう……っ」 大井は頭を動かさずに目だけで周りの状況を伺ってから、さっとこちらの口に箸を差し込んだ。 即座に口を閉じたが、伝わるのは温かい鰻の柔らかさとタレの甘辛さだけ。 畜生、箸引っ込めるの速いぞ。 「何考えてるんですかっ。変態ですか」 世間のアベックが普段やっていることだぞ。 これくらいで変態呼ばわりされるなら、自分らは不純異性交遊で揃って仲良くとっくに憲兵沙汰だ。 ついでに言うと、自分はちゃんと責任能力があるので不純にも当てはまらない。 「あの、今食事中なんですが」 おっとすまん。鰻は美味しかったぞ。 えーと、そう。お前の砲撃が不調の話だったな。 「……チッ」 おい。 …………………… ………… …… 流石に執務においては喋り始めると筆が止まるので、黙々と処理していく。 本日中に行った演習や建造完了の報告書の作成をまず済ませてから、 上から課せられた任務をどうにかしてこなそうと頭を使う。 が、流石に疲れてきた。 「……休憩を入れさせてくれ」 「あ、はい。お疲れ様ね」 しかし大井は自分の作業をやめようとしなかった。 戦闘も執務もこなして、お疲れなのはそっちじゃないのかと問いたい。 しかし、今は一人で何も考えず頭を休ませたい気分なので、声はかけないでおく。 席を立ち、壁にかかった上着を羽織る。 「どこか行かれるんですか」 「敷地内を歩くだけだ」 「あまりサボらないで下さいね」 「……ああ」 そして部屋を出た。 部屋を出て、すぐ建物を出たのではない。 間宮に断りを入れてから厨房に寄り道し、冷蔵庫に潜ませておいた刺身のパックをビニールごと持ち出す。 外に出ると潮風が吹いている。少し寒いが、頭の中を空にすればいい。 本棟の横っ面を覗きに行ってみれば、数匹の猫が軒下で丸くなっていた。 自分は手に持っている物を取り出し、何も考えず、何の表情も作らず、 群がる野良猫に切身に加工された鮪を与える。 ここは民家ではないし危険な場所も多い。 こんなところに住み着いていないで、民間人に媚び売って拾ってもらった方が幸せだと思うんだがな。 一枚一枚刺身を猫の口に持っていき、食う様をぼーっと眺めていると、珍しく足音が近づいてきた。 それもよく聞いてみると、二人だろうか。 「提督」 「……大鳳か」 しかし一つの声の発信源へ首を回すと、大鳳だけでなく大井も同伴していた。 「猫がお好きなんですね」 「猫くらいしか動物に興味がないだけだ」 そそくさとごみをビニールにしまい込み、改めて向き直る。 大井もそうだが、艤装を外すと華奢さが強調されて見える。 そのようなどうでもいい感想はさておき。 「どうだ、他の艦とは。上手くやっていけそうか?」 「はい。みんな仲良くしてくれています」 なら良かったの一言に尽きる。 大鳳は優しそうな雰囲気が見て取れるし、心配はいらないか。 大鳳の事は済んで大井に目をやると、片手を差し出された。 その手には何の装飾も素っ気もない手紙が一つ。 「提督に、お知らせみたいです」 なるほど。寒い中ご苦労だった。 艦娘という特性を持ったこの二人は、格好の割にちっとも寒そうには見えないが。 二人とも半袖スカートに加えて、 脇が露出している大鳳はともかく、臍を出す大井ほか多数の艦は、もしも普通の人間だったら風邪を引きかねないだろう。 肉体は耐寒仕様と聞いても病気に罹らないとは聞いていないので、風邪を引かないともまた言えない。 受け取った封を開けて印刷された手紙を見ると、充ては上からだった。 知らせ文が一枚入っているだけで書かれている事も長くないが、要約すれば以下のような内容である。 『艦娘の性能向上を図る為、最大まで練度を高めた艦に限り、 装着することで練度を更に高める事のできる"結婚指輪"の購入を、二月一四日より許可する』 これを最後まで読んで、一分程前まで動かしていなかった顔の筋肉は気持ち悪いくらいに歪んだ。 新入りの艦が目の前にいるのに早速悪印象を与えるのはよくないのだが、顔の筋肉は笑う事をやめさせてくれない。 大鳳は首を傾げ、大井は訝しげな目を向ける。 「……ラブレターじゃないわよね?」 ははあ。そういう考えに至るのか。 分からなくもないが、斜め上の反応だ。可愛い奴め。 上官に向けるべきとは言えないだろう言葉遣いに大鳳が少し慌てても、大井は構わず不審げにこちらを見定める。 大鳳の心配も虚しく、自分は色んな意味で笑いを堪える事ができなくなるだけだった。 艦隊が全くの無傷で戦闘海域から帰還した時よりも気分がいいのは確かだ。 「あっはは! 馬鹿言うな。そんな物貰ったこともない」 笑い飛ばしてから手紙の内容は自分の胸だけにしまいつつ、二人を促して共に本棟に戻る事にした。 …………………… ………… …… 「チッ、なんて指揮……。あっいえ! なんでもありません。うふふっ」 聞こえているんだがな。 しかも今日初めて聞いたわけでもない。 にも関わらず、普通の人間なら十中八九どころか百発百中で怒るかしょげるに違いないこの場面で、 自分の頬の筋肉は持ち上がり、腹の中でこっそり笑うという的外れな反応を下すだけだった。 かくいう自分も以前はこの悪態を耳にすれば少し不愉快になったのに、毒されてきたのかもしれない。 今となっては、偶には聞いておかないと少し心配になる。 朝から晩まで所々に命中率の低下が見られた、不調続きの旗艦の肩を軽く叩いて声をかける。 「次、頑張ろう。な?」 「…………」 すると、長い付き合いでなお取り繕って浮かべる笑顔を流石に崩していった。 先はあのような悪態を偶には、などとのたまったが、 この元気をなくした姿を見ると、本気で作戦指揮を考え直さなければならんのではという気にもさせられる。 真っ暗な空の下で潮風吹く中、人の手で整形された岬に艦娘が並ぶのを確認してから顔を一旦引き締める。 「これにて、本日の演習は締めとする。艦隊解散」 破損した艦に入渠させる指示を出してから、自分は一人執務室へ向かった。 演習の報告書を作成しなければならない。 …………………… ………… …… あまり時間もかからず全ての執務を終え、 艦娘修復ドックとは別に備え付けられている、いくつか並ぶ個室の風呂場の一つにて疲れを流す。 実際のところ艦娘の修復ドックの内訳は大きな風呂場だけではないが、ここでは割愛する。 まず頭を適当に洗い、次に体を―― がらっ。 「!?」 洗おうとすると、背後で突然引戸が開かれる音に驚く羽目になった。 ここの風呂場は恐らく自分しか使わないはずなので霊かとさえ思ったが、 流石に身に覚えのない罪は背負っていなかったようだ。 深海棲艦が霊になって出てくる可能性があるなら心当たりは山ほどあるが、 かの小松兵曹長も絶賛してくれるのではないかと言える素早い首振りで、それは妄想の一つに過ぎなくなった。 「お邪魔しますね」 何故なら、入ってきたのはクリーチャーじみた霊なんかではなく、バスタオル一枚巻いただけの大井だったからだ。 いや、確かに呪われたり後ろから刺されたりする心配はないと言えるが、これはこれで安心できない。 自分は大井みたいにタオルなんか装備していない。 体はこれから洗うところなので、股間がうまい具合に石鹸で隠れているという事も、ない。 回り込まれればたちまち見られてしまう。 「なっ、何しに来たんだ」 「お背中流しに、です」 自分の記憶が正しければ大井には入渠の指示を出したはずだが。 小破だから長時間かからないとはいえ、短時間で二度も風呂に入るという奇行の真意を読めない。 首だけ後ろに向けると、タオルに覆われた二つの山が気になるが、 なるべくそこではなく顔を見て、立ったままの大井に問う。 「入渠はしたのか?」 「シャワーだけ。だから提督と入るんです」 「待て、それなら私にタオルを一枚――」 「必要ありません」 「…………」 出口は大井の後ろ。 タオルは脱衣所。 分かった。投降しよう。 「……好きにしろ」 「! ……はい」 心なしか嬉しそうだな。 すぐに背後で腰を下ろすのが分かった。 背中を流してくれると言うのでそれに任せようと待っていると、 横から手が伸びてきて前に置いてあるボトル石鹸を持って行った。 手拭いでがさがさと石鹸を泡立てる音を聞いて落ち着こうと、俯き目を瞑る。 やがて硬い手拭いが背中に押し当てられた。ゆっくりと上下に全体に石鹸が広がる。 一人では落とし辛い背中の垢がどんどん浮かべられていくも、落ち着いて安らぐ事ができない。 猫背で緊張を隠していたが、少しだけ経って不意に手拭いが背中から離れて今度は困惑する。 どうかしたかと振り向こうとしたがそれは叶わなかった。 むにゅ。 「んっ……」 泡立てやすいよう少し硬めに作られている手拭いから一転、 とても柔らかい何かが二つ背中に押し当てられた。 それにはそれぞれ小さいながらも硬く自己主張する何かが付いていて、 もしや、という予想は、両肩に両手を置かれて背中の何かで上下に擦られ始めたところで確信に変わった。 大井は小さく喘ぐ。 「ん……、あ、あ……」 「……! 何やって――」 「背中、流してる、んっ、ですよ」 いつの間にかタオルも取っ払ったらしい。 せわしなく頭を左右に回すと、湯船のふちにタオルがかかっているのが見えた。 このやり方では風俗嬢だ。 これもまた演習後の相手の艦隊から聞いたのか。 せっかくの情報交換で妙な事ばかりを吹き込むのはやめて欲しい。 もう今後は演習が終わったらさっさと帰投するべきか? 「ん、ふ、ん、んっ」 一言で言えばはしたないと大井に非難する自分と、大井に奉仕されて馬鹿正直に喜ぶ自分がいる。 自分はどちらの姿勢を取ればいいんだ。 脳内で急遽開かれた軍法会議は、大井が起こす独特の快楽の荒波のおかげで一向に進まない。 大井の息遣いがずいっと左の耳元に近づく。 「あっ、てい、とく。気持ち、いい、です、か? ふ、う」 柔らかくて大きいタンクが背中でずりずり擦られる。 決して激しくはないが、リズムを取って断続的に息を耳に吹きかけてこう囁くので、 冷めた自分が少し小さくなり、喜ぶ自分が少し大きくなる。 どことは言わないが、文字通りの意味でも少し大きくなる。 ただ、冷めた自分はまだ死んではいないので、その問いには何も答えない姿勢を取る。 「何も、ん、言わない、なら、続けちゃい、ますよ、はあ……」 しかし、大井の奉仕に懸命に抗って突っぱねようという考えはない。 何も言わないのは、まだその気になれていないからだ。 それでも、あと少しもすれば素直になるだろう。 柔らかい中にある突起物がとても気になって仕方が無い。 「ふう、っ、っ、あっ」 正直こんなすべすべなもので擦られても垢がちゃんと落ちるとは思えないが、垢の事なんか今更どうでもいい。 大体毎日入っているんだからそこまで気にする必要もない。 「……前も洗っちゃいますよ」 待て。 いつの間に肩から離したのか、見えるは横から伸びる手拭いを持った白い腕。 「おいっ、前は自分で――」 「嫌ですか?」 「…………」 そう言いながら手拭いを持った手を動かす。 好きにしろと言ってしまったし、仮に嫌だと言ったところでやめる気はなさそうだ。 「……嫌じゃない」 止まっていた背中流しも再開され、前後を同時に効率的に洗われる。 こんな状況で世間話をする雰囲気なわけもなく、かと言って他に何を言えばいいかも分からず、 体の垢だけでなく、自分も状況にただ流される。 やがて体の前後が満遍なく石鹸で満たされた時、自分の魚雷にはもう充分に血液が装填されていた。 「ん……、あらあ?」 きゅ。 「いっ……」 何かに気づいた声を発してから、前を洗う手拭いを持った左手が引っ込んだかと思えば、 何も持たずにまた伸びてきた左手が自分の魚雷を掴んだ。 「……うふふ」 妖艶に小さく笑ってからそれを扱き始める。 先まで体を洗っていて石鹸でまみれた手は、摩擦係数を著しく落としていた。 大井がずっと主導権を握るこの一連の流れは、どう考えても風俗を模倣しているとしか思えないが、 こいつは分かってやっているんじゃないだろうな。 魚雷の根元から先までをぬるぬるした手で扱き、カリの部分を程よい力加減を持って通過するところもまた粋らしい。 「はあ……んむ」 「ッ!」 背筋を震わせられた。 大井が耳元でこちらが気の遠くなるような吐息を零してから、突然耳たぶを口に含んだからだ。 口内で舌をちろちろ動かし、弄ぶ。 「ちゅっ、……ちる」 「じゅ、ちゅる、じゅる、はあ……」 くちゃ、くちゃ。 ゆっくり扱きつつ、上も耳たぶだけでなく耳全体に唾液をねっとり絡めていっている。 温度が低めの耳は、大井の口に包まれ熱い舌で巻かれる事でやっと温められて、というより、熱くされていく。 「ふっ、んん……、れろ、はあ、ぺろ」 「っ、はあ……、はあ……、あぁ、むっ」 大井は、息を荒げて性感帯の一つである耳を丸ごと喰らう。 耳の中にまで舌を差し込み、精一杯演出しようと派手に唾液の音を立てる。 その間も魚雷の扱きは決してやめない。 愛撫もまた単純なものでなく、耳にせよ魚雷にせよ弄る位置を微妙に変えたり緩急をつけている。 耳は中を舐めたり外を甘噛みして、魚雷はただ扱くだけでなく先端を撫でたり玉を揉んだりする。 なんとも器用なものだ。 別に夜戦について指導したわけでもないのに、この上達ぶりは不思議だ。 「くちゅ、はあ……、ちゅう、んん、じゅる」 不言実行と言うのか、全ての意識を行動に注いでいるようで、口数はめっきり無くなっている。 この場では水の音が反響し、耳の傍から荒い息と粘液の音をしつこくぶつけられるだけだ。 自分の足はだらしなく開き、 体は押し当てられているタンクに拘束されたように振りほどく気になれず、耳も無抵抗のままに喰われる。 多分魚雷もだらだらと何かを垂らしていると思うが、段階的に速めくなっていった大井の激しい手付きでよく分からない。 やがては魚雷はただ扱くことだけに愛撫を絞られる。 大井は体の表面積をなるたけ広く密着させ、右手も私の右肩に置くのではなく、抱く状態に変えた。 これではまるで縋り付かれているような体勢だ。 ぱちゃぱちゃぱちゃぱちゃ! 「じゅっ、じゅるっ、んん、ちゅる、ああ、ちゅっ」 「んむ、ちろ、ちゅっ、ちゅぷっ、はあ、はあ、提督……」 なんだ。こんなときに。 こっちはもう達するところなんだが。 「えう、ちゅ、ん、ふ、はあ、ちゅうううっ、ああ、提督……」 「はあ、提督、ていとく……」 びゅっ! びゅくっ! びゅくっ! 「――――……」 もみくちゃにされた玉が、とうとう穴の開いた風船のように中身を一点の出口目掛けて魚雷の中を走らせた。 耳元で熱く呼称を発せられながら、自分は石鹸水より明らかに白く粘り気のあるもので床に汚い花火を描く。 熱気が充満する風呂場の中、一歩間違えれば逆上せかねない程に頭がくらくらした状態で背筋を震わせても、 達した直後に大井が漏らした、声帯をまともに使っているとは思えない微かな呟きを、 自分は何とか聞き取ることができた。 その意味が気になって考え始めてしまい、 その後は互いに言葉を発しないまま体を流してから共に湯船に浸かるという、 前戯がまるでなかったような空気に変わっていた。 二人で入るにはやや狭い湯船に並んで無言で浸かる光景は、端から見れば異様だろう。 例えば、対面して入って互いの恥部が見えたり、抱くように入って密着、という事も考えなかったわけではない。 が、大井はタオルを巻き直し、自分も腰に巻くためにわざわざ脱衣所まで取りに出た時点でその可能性は潰えた。 情事の誘いかと思っていたのに、前戯の続きをする気さえ起きないのだ。 そうさせた根源である大井の一声について、勇気を出して話を切り出してみる。 「……"見捨てないで"って、どういう意味なんだ?」 「……聞こえてたの?」 音が反響する風呂場では、小さな声でも充分会話ができた。 それにあれだけ耳に近ければ、蚊が鳴くより小さい声でも聞こえる。 冷静に考えてみれば当然の事なのに、大井は目を合わせてそんな事を聞き返す。 覇気のない調子はまだ長引いていたらしい。 「……最近また、失敗が多くなって、今日なんかも……」 再びお湯に向かってから、心の内を吐露し始める大井を黙って見つめる。 「提督に興味を持つ艦は増えるし、後になって考えてみれば、朝の提督の寝言も、私の名前なんて出てないし……」 名前までは口に出さなかったのか。 なんと中途半端な寝言だ。 全く口に出さないか名前ごと口に出していれば、ここまで悪い結果にはならなかったのかもしれないのに。 それと、自分に興味を持つ子が大井と北上以外にいるというのも思わぬ話だ。 「私より可愛い艦もいっぱいいるし、提督は私に興味なくしちゃうかなって……」 最後に自身に対して小さく嘲笑してから、それきり黙ってしまった。昼にも見たそれと同じだった。 やめてくれ。そんな笑顔は見ていて悲しくなってくるんだよ。 いつもの優しい微笑を浮かべてくれよ。 裏切ったら沈めるって自分で打った釘にも自信を持てないのか。 ……嗚呼、朝から晩まで全て自分が原因だったな。 あまりこんな事ばかりやってるとこちらが興味を尽かされかねない。 それでもこういう時、こうして寄り添うか腕で包む以上の事が考えつかないのだ。 「夢に出た相手もお前だったよ。戦争が終わるまで待てと断られたけど」 こんな男でも許してくれるのなら。 「でも、お前の調子が良くとも悪くとも、戦争が終わろうとも終わらんとも」 山と積まれた失敗を前にしても望みを捨てられず、自分は痛くしない程度に抱く力を強めた。 大井がしたように、自分も恥なく自分の内を曝け出す。 できれば失敗ばかりの自分を受け入れて貰いたい。 「私は、すぐにでも大井と一緒になりたいと思う」 「……本当? 他の艦に興味はないの?」 北上には悪いが、北上でも大井と同じように見る事はできないんだ。 大井だけだよ。 「……まだ足りないわ」 ……今晩、一緒に寝ようか。 「それは、どっちの意味で?」 両方のつもりだが、嫌かな。 「いえ……。そう聞くと私、燃えちゃいます」 大井は静かに覇気を取り戻していた。 振り返るその横顔は、気のせいかきらきらしているようにも見える。 胸のわだかまりを解消した頃には体も充分温まったので、一言添えてから先に風呂を上がった。 畳に敷いた布団に枕を二つ並べながら声に出さず一人笑う。 明かりを電気スタンド一つに任せて布団に潜り、文庫本を片手に考える事は本の内容ではない。 手持ち無沙汰の為に何となく読み流しているだけで、 実際は隣の枕の主とさて何を話してやろうかと頭の引き出しを漁っている。 小学生の遠足前日の気分に共通するところがあって、やはり自分は子供だなと少し嘆息する。 きい。 ……かちゃん。 大井は扉の開け閉めをなるべく控えめにして入室し、靴を脱ぐ。 掛け布団を上げると、もう一つの枕にもそもそと潜り込んできた。 ところで、睡眠時に見る夢とは、自分の知識、記憶、想像を元にして作られるらしい。 だから、例えば博識だと知っている人に夢の中で何か質問をしても、 自分がその答えを全く知らないとその人も答える事はできないし、 その人が何と答えそうか自分が想像できていても、それは自分の独断と偏見の塊でしかないため、 結局は自問自答となんら変わらないと言える。 だから、夕べの夢について気になった事を天井を見ながら、隣で横になる本物に尋ねてみた。 「……私は、北上をお前と全く同じように見る事はできないんだが、北上の傍にいてやるべきなのかな」 こんな事を聞いたら、大井は激昂するだろうか。 解釈の仕方によっては、下手な同情と取られても仕方がない。 愛にも色々あるが、それでも自分が北上に向けるのは『親愛』なのだ。 大井は、少しも待たず答えを出す。 「別に、北上さんから離れなきゃいけない理由はないでしょう?」 しかし大井の反応は、自分の予想していたものとは毛先程も合わない、平静したものだった。 大井の答え、というより考えている事は、自分が想像していたものとは、もしかすると根本から違っていたのかもしれない。 「まずこの戦争が終わったとして、提督は、北上さんや他の皆から離れるつもりなんですか?」 「……いや、そんな事はないけど」 「なら、何も気にする事はないでしょう?」 この疑問を一人で考えても悩んでも分からなかったのに、人に聞いただけで、呆気なく打ち破られた。 別の視点からも物事を見るのはとても大事だ。大井はそれに気づかせてくれた。 全く。大井はどの面においても私より優秀だ。 私なんかより大井が艦隊の指揮を取るべきじゃないのか。 「戦いながら他の艦に命令しろっていうんですか? それじゃ存分に戦えませんよ」 そうなるな。 海戦の時は眼前の敵を討つ事のみ考える大井らしい回答だ。 にしては、今日は不思議と著しい命中率の低下が見受けられたが、それについてはどうお考えで? 「それは……」 責めている訳ではないが、こんな事を言われて大井が黙ってしまうのを責める事もまたできない。 真っ正面に敵を捉えて命のやり取りをする艦娘の視点がどのようなものか、 自分には知る由もないからだ。 その艦娘を利用して海や陸を守ろうとする自分ら指揮官のその想いと期待を、 どれほどなら艦娘に背負わせて良いのか、非常に難しい問題だ。 大井は仰向けで天井を見る頭を少しだけ向こうに回したので、 横顔を伺う事ができなくなってしまった。 「……よく、分からないの。もう睡眠時間は削っていないし」 「…………」 「もしかしたら、提督に見捨てられたくないとか、褒められたいとか、焦ってるのかもしれません。 前は、『重雷装艦にまでなれたんだから、沈んでも悪くないかな』って考えていたのに……」 所謂深夜の気分なのか、あるいは部屋の明かりが少ない事によるものか、 そんな事を大井は抑揚なく、まるで他人の話のように明かす。 「提督は、こんな私でも艦娘を続けてほしいって、思いますか?」 大井はやっと頭をこちらに回してくれたので、大井とは十五サンチ程の距離で見つめ合う状態になる。 壁際に寄せた炬燵の上の大きくない明かりが布団一つを照らす中、 影のかかった今にも暗闇へ消えてしまいそうなその顔に、誰が無理強いをできようか。 最高戦力が艦隊から抜ける事でもたらされる影響はあるだろうが、 その穴をカバーできなくはない筈だし、何より大井の意思を尊重したかった。 「私としては、傍にいてくれればいいんだ。 続けるかやめるかは自由だが、大井がどっちを選んでも見捨てる事はあり得ない」 大井の、艦娘を続けて欲しいか否かの問いにはこのように曖昧な事しか言えないが、これが自分の答えなのだ。 これを時間をかけて意味を咀嚼したらしい大井は、泣くのを堪えるように顔を歪ませた。 瞼は瞳が何とか見える程度まで下ろされていて、唇もぴったりと力が入ったように閉ざされている。 この回答だけではやはり不充分だったのか。 「す、すまん!」 しかし弁解やら慰めやらは何と言っていいか分からず、謝罪の言葉しか出なかった。 行動で表す慰めとして、慌てて仰向けの体を九十度回して寄り添い、 片腕を大井の体の上から背中に回す。 顔はさらに近づく。 開かれたその目が潤んでいる事は、光が少ししか当たっていなくてもこの距離で分かってしまう。 それを直視できなくて、思わずこちらが瞼を下ろしてしまった。 大井をこうしたのは自分なのに。 「ん……」 これは大井の息遣いだ。 それを聞いたと同時、自分の瞼は開かれた。 何故自分は目を瞑った大井に脈絡なく唇を押し当てられているのだろう。 押し当てられていると言っても大井が顔を何とか前に動かして触れさせている程度だが、 自分には唇の柔らかさと熱が充分に伝わる。 「は……」 たった一秒程で離れた。 これではいつもなら名残惜しさが残るだろうが、今は戸惑いが残る。 「……私の回答がショックだったんじゃないのか?」 「ショック? 安心してるんです。すごく」 枕に頭を預けたまま首を振るような動作を小さく行って、大井は涙を一滴流す。 つー、とそれは重力に倣って枕へ流れたが、大井は気にせず、潤んだ目を隠そうともせず続ける。 「あの時の人達はみんな、お国の為だなんて言って、国の物を好き勝手に使い潰して」 「でも提督は、私達を大事に使ってくれるから、私は、『この人を好きになってよかった』って……」 捻りのない直接的な告白は、何度聞いても全く飽きない。 自分も大井に大事にされていることが、すぐ、よく分かる。 自分もまた、大井を更に大事にしたくなる。 横になりながらなので片腕で申し訳ないが、この拙い抱擁にあらん限りの想いを込める。 「あ……、提督、何ですか?」 なんだ。 ドラマのような空気はもう終わりか。 突然飛び出る場違いなまでに惚けた科白が、自分らの性格を短く表しているようで、笑わせてくれる。 密やかに笑う様が、大井をほんの少しだけむっとさせたらしい。 「……笑ってないでちゃんとやってください」 「ふっ、くく……ちゃんと、とは何を?」 笑いを堪えて抽象的な部分を問い返す。 実のところこういう事ではないか、と半分程は分かっているのだが、 男の子というのは好きな娘を困らせるのが性分だからな。 烈風をどれだけ積もうが、付いて回る性分というものは撃墜できまい。 思惑通り、大井は多少恥ずかしげに視線を枕にやって言い淀む。 嗚呼、面白い。可愛い。 「だから、その、両手で――」 「はいはい。体、浮かせて」 「……ん……」 敷布団側の片手も大井の体をくぐらせ、大井の背中で掛布団側の片手と邂逅を果たす。 掛布団側の足も大井の両足に被さるようにして、 目を閉じて触覚を研ぎ澄まし、最後に心ゆくまで腕に力を込めれば、柔らかい立派な抱き枕の完成だ。 抱き枕が漏らす鼻息が口元に当たってこそばゆい。 「んっ、力、入れすぎなので、提督に二十発、撃っていいですか……っ」 「……なら、撃てないようにもっときつくしないとな……」 「あぁっ……もう……」 そうそう。 抱き枕は持ち主に逆らっていないで大人しく抱かれていればいいんだよ。 こうして目を瞑っていれば、そのうち深い眠りにもつけるのではとの考えが過ったが、そうは問屋が卸さないらしい。 「ん……」 生意気な事に抱き枕が再び口をつけてきた。 もう二度目なので驚かず、ただ受け入れてやる。 かと思えば、またすぐに離れてしまった。 目を開けてみれば、互いの顔の距離にして僅か五サンチくらいか。 とても近い。 「さっき自分で言った事、忘れてませんよね?」 「……そうだな……」 危うく寝るところだったがな。 早速動かしやすい上の片腕を、大井の装甲の裾から差し入れて弾薬庫をまさぐる。 「……お腹なんて触っても……」 気持ち良くさせたいとかではなく自分が触りたいだけだ。 気持ち良くなくても我慢してくれ。 ここは中々に引き締まっていて、見なくても触っただけで無駄がない美しい艦体をしている事が分かる。 側面が緩やかな曲線を描いていて、何度でも撫でてみたい。が、先へ進む。 大井はどこを触っても本当にすべすべだなあ、とぼんやりした考えでタンクに辿り着く。 手の中で一番長い中指の指先がタンクに、ふに、と無遠慮に当たった。 「っ……、乱暴にしないでください、燃料が漏れちゃいます」 小突いたくらいで穴が空く訳ないだろう。 しかし痛くする理由はないので、陶器製の高級お椀よりも大切に優しく扱う。 その事を念頭に置いて撫でる程度にまさぐっている途中、ピーン、と頭の中で閃きの音が響く。 「ここを大きくすれば、航海時間が伸びるのかな?」 「知らな、ぁ」 むにゅ。もみもみもみ。 「んう……っや」 「嫌?」 「いや……っ、じゃない、です……」 改修も並行して行えるとは、何とも効率的な夜戦があったものだ。 自分は顔が気持ち悪く歪まないよう精一杯堪える事で忙しかった。 口の端に力が入っているのを、多分大井は気づいているだろう。 何せこの距離だ。 そして私が大井に触れる事ができるという事はつまり、大井もまた私に触れる事ができる訳で。 大井より背がある私のズボンまで手を伸ばすのに長さが足りないのか、 少し身を下にずらし、それに倣って顔もやや掛け布団に隠れるのが微笑ましい。 言ったら拗ねるかもしれんな。 大井は器用に片手だけでベルトを解除し、ズボンを緩めてから探索の手を入れていく。 「ぁ……提督のも、こんなになってるじゃないですか」 「魚雷、好きだろう?」 「私の知ってる魚雷はこんなに熱くないですよ」 「提督の魚雷って?」 「熱くって、素敵、って何言わせるんですか」 今自分らがやっているのはテレビで見る漫才かコントの類か。 二人でくすくすと一頻り笑いあってから、事は再開する。 先程一回出したので自分の感度は幾らか落ちているが、まだ行ける。 下から上に向かって捻りながら引っ張るような、変わった扱き方だ。 体勢的にこのやり方が合っているのだろう。 風呂場では大井に一方的に攻撃されるだけだったが、いつまでもそれでは格好が付かない。 身長一五二サンチの大井の下部装甲まで腕を伸ばすのは、難しいものではなかった。 手探りするまでもなくまず外側の装甲を捲り、秘所をカバーの上から柔く擦るが、大井は拒まない。 「直接じゃ、ないんですね、っ」 「っく、直接か。今は、我慢してくれ」 「そういう、んっ、の、自意識過剰、って言うんですよ、あっ……ぁ」 ならばそんな口が叩けなくなるまで、ずっとカバーの上から擦るだけだ。 ある程度まではやや強めに擦ってやるが、そのうち擦るだけでは満足できなくしてやろう。 それぞれ手一つだけを使って相手を攻める防御なしの一騎打ちは、練習航海が一度できる程度の時間を使った筈だ。 「あぁっ! はぁ……はぁ……」 ぐっしょりと濡れたカバーの上からでも分かる突起物を指で弾くと、 大井は甲高く啼いてから、口呼吸する。 そこは結構な性感帯だと聞いている。 それに手をつけてからは、またあまり刺激にならないような部分を柔く擦る。 「ていとく……まだ、足りないわ……」 「だから?」 「う……、ちょく、せつ……」 大井はいつの間にか扱く手が止まっていたので、主導権はこちらに移っていた。 ただ大井も長く耐えたので、こちらもいい加減触りたい欲のままに余裕なく、最後まで聞く前にカバーの中に手を入れる。 もし素面なら、自分はきっと手を突っ込む事に躊躇いを覚えるだろう。 何せそこは源泉と化してしまっているのだ。 もはやこのびちょびちょのカバーは使い物になるまい。 バケツでぶちまけたかのように潤滑油が溢れた状態では、 遠慮する必要はサーモン海域まで探しても見つからないと踏み、すぐに穴に中指を差し込む。 くちゅ。 「あ! むうっ!」 恥を知るらしい大井は、口元の布団を噛み締めて嬌声を抑えようとした。 この執務室が防音加工されているから、そんな事をしなくても表に漏れる事はないのに。 そして、布団を噛もうが下から発する水音ばかりはどうにもできないだろう。 「うわあ……」 すっかりほぐれているそこは中指をそのままに、薬指も付け根まで抵抗なく受け入れた。 女ってのはここまで濡れる事ができるのか、と、新たな発見を前にこれまた場違いな声が小さく漏れた。 経験の浅い男の分かりやすい反応だな、と情けなく思ったが、もう遅い。 これが大井には別の意味にでも聞こえたのか、眉を潜めてこちらを睨む。 それでも布団は口にしっかり咥えたまま。 その噛まれるものが布団から自分の鼻っ面に変わらぬうちに二本の指を動かす。 「っ! ……っ!」 粘っこい音がする。 どろどろの重油とも違う、独特の水質を表現するその音が、指をくいと曲げて中を抉る度に耳にへばり付く。 指だけでなく手全体を動かすようにエスカレートさせてみれば、 大井はピクピクと痙攣しながら口の端から声のない息を漏らす。 軍艦ではなく音楽の指揮者になった気分だと面白がるのもほんの一瞬に、 布団の中から自分の手をゆっくり取り出して、無色透明の潤滑油にコーティングされた中指と薬指を口に含む。 「ん……」 「!?」 すると、大井は敵艦を照らす探照灯のように目を見開いた。 と言っても、明かりの少ない部屋を輝かせる程の光に自分の目が潰された、とか厄介な事にはならず、 口に大井の味が広がって自分の性欲にぐんと拍車がかかっただけだ。 「……少し、しょっぱいな」 「~~っ! 変態ですかっ」 「お前もやった事だぞ」 「あ……」 最初に大井が夜這いに来て私のを飲んだ事、忘れたんじゃないだろうな。 あれは自分にとっては衝撃的な出来事だったんだが。 しかしそんな事を追及している場合ではない。 「……この体勢、好きだな。お前」 「提督はお嫌いですか?」 「いや、好きだよ」 行為の後寝てしまう事を考えて、ストーブに火は起こしていない。 寒さを凌ぐ為に、布団を被ったまま服も碌に脱がず私に跨って上体を低くし、 私の頭を挟んで布団に両手を置く大井の発射管に、自分の魚雷を収めるべく手を添えて場所を探る。 見えないと場所が分かり辛く、度々周囲に当たる。 「ぁ、もう少し、手前……」 多少曲げたりして融通の聞く魚雷を言われた通り動かすと、大井はほんの僅か腰を下ろした。 すると、先端がめり込む感触がしたので……。 「ん……ふわあああ!」 すとんとすんなり行った。 にしては、大井は軽巡時代の悲鳴に色気が添付されたような大きな嬌声を上げた。 感度良好だな。こちらとしても張り合いが出てくる。動くのは大井だが。 「……ぁ、ふぁ、あ、ん、んん……!」 割とすぐに加速していくようだ。 先程の焦らしを意識した前戯が効いたのかもしれない。 「あ! やだ、止まらな、ふぁあ!」 こちらも最大限に快楽に溺れ、抗う。 大井の発射管も練度が上がっているのか、 自分の魚雷にちょうどいい大きさに形が変わっていて、以前よりスムーズに大きく動かせるようだ。 もちろんどう動かすかは大井にかかっているのだが、こちらが注文を付けるまでもなかった。 「あうっ! はあ、ああ!」 自分らは見つめ合って互いを求める。 自分が大井をここまで喜ばせているのだと、大井の色気に満ちた、寒さの欠片もない顔を見て実感できる。 愛しい感情がこみ上げてくる。 嗚呼、大井。私の大井。 「キス……」 「ぁ、え? ……ふふっ」 小さく漏れた私の声も拾う大井は上下運動をやめ、 軍服に包まれた私の胸板に両腕を置いて顔を近づける。 自分が瞼を閉じると同時、閉じかけの視界の中、大井も瞼を閉じるのが見えた。 直後口に来る感触あり。 「ん、ん、ぅ」 「ちゅ、ん、ふぅ」 「あぁ、ちゅく……、ん、うぅ……」 体を重ね、舌まで連結しても、触れ合いたいという欲は止まらないまま深まるばかりで、 左手は背中に添え、右手は頭頂から後ろ髪までを何度も梳かす。 左手には傍まで寄ってほしいという想いが、右手には精一杯の愛でたい想いがある。 温かい。 やはり艦娘と言っても、一緒にいてくれたら人肌恋しさを満たす事もできる、普通とは少し違うだけの人間なのだ。 口を離し、体を完全に預けてきた大井は頭を私の右肩に埋める。 髪が右頬をくすぐる。 「はぁ、……温かい、ですね」 「ああ……」 ストレートの髪を撫でる手が震える。 知ってしまったこの温もりを喪った時の事を考えてしまい、怖くなったのだ。 不安にさせたくなくて大井には大口を叩いたが、本音としては、 幾ら自分の指揮に自信があっても、運命を見る事ができない限りは、絶対に喪わないようにできるとは言えない。 「提督? 手が震えてますよ……」 それを大井が気づかない筈がない。 私の肩に埋めていた顔をあげて、私の顔を覗き込もうとする。 いよいよ本当に風邪に罹ったように、少しの汗をかいて上気した顔が、眉尻を下げて心配そうに見下ろす。 軍人とはその役職柄、冷徹な人間が向いているだろうが、自分含めそうでない軍人等珍しくない。 かく言う自分はお世辞にも軍人に向いているとは言えない。 配属されている艦娘の殆どの前では自分の考える『軍人らしさ』を演じているが、 せめて大井には、自分の弱さを受け入れて認めてほしく、顔を逸らせという脳の命令を撤回する。 大井はとても優しい顔を見せてくれた。 「怖いんですか?」 今の自分は弱々しい声をしているに違いないので、声に出す代わりに頭を小さく縦に動かした。 大井は再び私の右肩に顔を埋めて、右手で頭を包むように撫でてくれる。 「……大丈夫ですよ、大丈夫……」 こうは言ってくれるが、自分が何に対して慄いているのか、大井はきっと分かっていないだろう。 必死の思いで口元の大井の耳に、殆ど喉を使わない小声で伝える。 「大井は沈まないよな……?」 ここにきて、艦娘として活躍してほしい、使命を帯びた艦娘を縛り付けてはいけない、等の考えと、 艦娘をやめさせれば喪う事はなくなる、という考えの、盛大な葛藤を直視してしまった。 依存しているとも言えるまでに大井の不調を気にかけている事に気づいた。 自分の体に大井の体を押し付けようとする両手に尚、力が入る。 「……それは提督次第ですけど」 なるほど、現実的な答えだ。 客観的に考えればこれこそが模範解答である筈なのに、 自分の中ではこっそりと諦めムードが流れようとしていた。 しかし大井の科白はまだ終わってはおらず、私の耳元で囁きかける。 「十年以上も練習艦をやってきた私が、沈むなんてありませんよ。何なら、提督にも教えてあげます」 「……それは心強いね……」 これが、幾人もの軍人見習いを指導してきた練習艦ならではの余裕というものか。 大井が持つ珍しい経緯もあって、自信と余裕に満ちたその科白は非常に説得力があり、 大井に問いかけた自分の疑心は、基盤が豆腐でできていたかのように脆く崩れた。 練習艦にだって調子のいい時と悪い時はある。 こうして脱力して両手からも力がなくなった隙に、大井は上体を起こした。 「あ……」 「……うふふ」 温もりが離れてしまい、切ない声が漏れる。 電気スタンドに照らされるようになったおかげで、大井が私の顔を見下ろして小さく笑っているのが分かった。 私が漏らした声が面白かったのか、それとも力の抜けた顔が面白かったのかは、分からない。 大井は襟首に装飾されている白いスカーフを解いてするりと抜き取り、装甲を緩めて肩を肌蹴させる。 最後に頭に被さっていた布団を鬱陶しげに手で退かした。 もしかすると、暑かったのかもしれない。 「手、つなぎましょう……?」 呆然としていて言葉の意味を理解するのに少し遅れた。 掌印のように差し出された両手に自分のをそれぞれ合わせる。 大井の指と指の間に自分の指を挟み込み、全ての指が互い違いに合わさってから、 自分らは初めて手を握る事を覚えた赤子のように、一本一本確かめつつ手をやっと握り合った。 「あは」 久しぶりとも思えるくらいだった。 大井は、さながら錆びてくっついてしまった魚雷発射管から魚雷を抜くようにゆっくり腰を持ち上げた。 ずるりと引き抜かれて、今までじっとしていた反動か急に刺激が来る。 かと思えば、糸が切れたように体を落とした。 「んあっ!」 一度だけで滑りが回復したのか、規則的に上下運動を始める。 くちくちと、ぐちゅぐちゅと、音も変化していく。 自然と両手にも力が入ったり抜けたりし、それに反応して大井も握り返してくる。 「ぁ、あ! あん! 提督っ、どうですかぁ……? どうなんですかっ?」 「はぁっ……」 「気持ちいいですかっ、あ!」 「うっ、気持ち、良くないわけ……」 「そうですよ、ねえ、んっ、こんなに、硬くっ、してるんですから……」 自分のはとっくに限界まで硬くなっている。 やはり一回出したとは言え、それを感じさせない程、大井とは相性が良くなっていたようだ。 練習艦とは夜伽のいろはまで知っているものなのか。やはり敵わないな。 いや、そういう事は最近になって自分で予習していたのだった。 私より上であろうとする姿勢へ尊敬し、その裏に垣間見る慎ましい努力に微笑ましく思うのもつかの間、 指を絡め合う両手と形の合った性器で強く結ばれる事で、精神的にも昇り詰めるのは難しい事ではなかった。 ここで、大井の嬌声の中に、今度は大井の心の弱みを具現化した科白が混ざる。 「あっ! 提督っ、提督は、裏切りませんよねっ?」 正直、何を言っているんだろう、と思う。 裏切ったら沈めるだの、絶対に見捨てないだの、散々言い合ったのに。 自分らが互いに存在を必要としあっているのは、今分かった事ではないのに。 それでも、大井に蔓延る不安を打ち消す為ならきっちり応えてやる。 「裏切らない。っ……、私はここにいる、ずっと大井の傍にいる」 こうして言葉に出すと、自分の気持ちも更に骨組みを補強するように熱くなった。 それでも大井はまだ納得しないらしい。 「本当っ? っ、ずっと……?」 「ずっとだ」 「んっ、ふふっ、……ちょっと、嬉しい」 "ちょっと"だけなのか。 しかし、大井の口の端が持ち上がったり、締まりが強くなったりと、変化は"ちょっと"ではなかった。 嗚呼、やはり、二人とも、目に映っただけでは安心できないのだ。 目に映して、声を聞いて、体と心を絡めて、やっと心の震えは鎮まるのだ。 互いの存在を確認しあうようなこの応酬は、このひととき、"ちょっと"ばかりでなく。 「……ッ!!」 「ふああ……!!」 これからも、幾度となく繰り返すのだろう。 繋がった手と性器、腰に乗る大井の体重等の感覚を強く感じ、 目を瞑り、眉間に力を入れて達しながら、自分はそんな事を考えていた。 …………………… ………… …… ぱち、と目を開けるとまず飛び込んでくるのは、少しだけ茶色がかった綺麗な髪だった。 私の背中で両腕を固め、私の胸に顔を埋める大井は、目を覚ましているのか確認できない。 窓の外を見れば、夕方とも間違えそうな微妙な明るさの空と大きめの雲が広がっている。 今日は天気があまり良くないかもしれない。 億劫に思いながら右手で優しく目の前の頭を撫でる。 「提督? 起きてるの?」 腕の中から、普段よりゆっくりとした声がした。起きていたらしい。 大井が寝ている自分に何らかの行動を起こす事を期待して、 返事をせず、寝ぼけている体(てい)で頭をゆっくり撫で続ける。 「……愛してます」 軽い気持ちで藪を突くのは、確かに危険だった。 静寂にぽつとこの科白だけが残る。 温もりを抱いて眠りから覚め、安らいだ精神状態でこんな言葉を聞ければ、今日は普段より頑張れる。 「提督、やっぱり起きてますよね」 「……おはよう」 予想できず愛を囁かれて、反応するように頭を撫でる手が止まれば、ばれても仕方がない。 窓を見ながら空と大井に挨拶する。 「今日は夢を見なかったよ」 「……だからなんですか?」 「夢でもまた大井に会いたかったな、とね」 「虚像ですよ、夢なんて」 「……夢がないな」 起きたと分かった途端大井は素っ気なくなった。 かと思えば、私の背中に回す腕の力を強めてこんな事を囁く。 「それに、夢の私は断ったんでしょう?」 「戦時中だから、なんて理由で私は断ったりしませんよ」 自分の頭の中の書類に『指輪と書類一式の購入』と書いて重要の印を押しておこう。 大井がやったように、自分も抱きしめる力を強めて、ただこう呟いた。 「……私も愛してるよ」 胸に顔を埋めたまま、起床時間まで何分あるかと何度も問う大井を微笑ましく撫でつつ、 起床時間を過ぎればまた怒られると分かっていながら、自分は実際の残り時間より長い時間を大井に伝え続ける事にした。
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提督×不知火の続き 昨夜は徹夜になるかと思われた仕事をなんとかこなして就寝した提督。 だがその眠りは股間への生暖かい感触によって妨げられた。 目の前にはそそり立った肉棒を無表情でしごいている不知火がいる。 「…不知火?」 「おはようございます司令」 「…何してるんだ?」 「早めに起きましたので執務室へ来たのですが 指令のが随分張っていいらっしゃったので処理をしています」 確かに疲れているときは朝立ちしやすい。 疲労による生存本能がそうさせるとか聞いたことがあるが とりあえず問題はそこではない。 「いや、だからと言ってだな…うっ…」 否応なく与えられる快感に流されそうになりながらも抗議の声を上げる。 「それに欲求不満で仕事に支障が出ても困りますので」 「くっ…そんなことは…ないと…」 快楽に流されないよう必死に我慢する提督。 「なかなかでませんね、仕方ありません」 そう言うと不知火はスパッツをずらし、提督の上にまたがるとそのまま腰を下ろしてきた。 ズブズブと多少の抵抗を見せつつも既に濡れそぼっていた不知火の割れ目に肉棒が飲み込まれていく。 起きたてで混乱していて気づかなかったが、どうやらしごきながら自分で弄ってでもいたのか すでに迎え入れる準備はOKな様子だった。 「不知火、お、お前はじめっからこうするつもりだったんじゃ…」 「…ンッ…! な、なんのことか不知火にはわかりません」 提督の意思など関係ないとばかりにぎこちなく腰を動かす不知火。 その動きに股間が刺激され、提督も無意識に腰が動いてしまう。 「で…ですので…ん…早く出し…てください」 「そ、そういわれてもな…」 グチュグチュと卑猥な音を立てる結合部、二人共我慢の限界が近づいてきたその時だった。 バターン! 「ちーっす、提督おっはよー!……って……えぇぇぇぇ!!!」 普段執務室に来ることなど滅多にない鈴谷が部屋の扉を勢いよく開いて入ってきた。 固まる三者。 「ちょっ! マ、マジ!? 朝から何してんのよ! マジ信じらんない!」 顔を真っ赤にしてキャーキャー喚き始める鈴谷。 「…司令が欲求不満だったようなので不知火が処理しているだけですが何か?」 「な、何か?じゃないっしょ!?」 「ちょっとまて! 人のせいにするな!…ッ!!」 急激に不知火の膣内の締めつけがきつくなる。 よく見ると表情こそ変えないものの顔は真っ赤だ。 さすがに突然見られて羞恥心が湧いてしまっているというところか。 「そういう事ですので早く済ませてください司令」 そう言うと再び腰を動かし始める不知火。 きつい締めつけのせいで再び硬さを取り戻す肉棒。 「え? ちょ…マジで!? なんでそこで続けるのよ!!」 「…ん!…鈴谷さんが…はぁ…部屋から出ていかれれば…解決することでは…?」 「そ、そういう問題じゃないって…え…? マ、マジ? す…すご……」 手で顔を隠している鈴谷だが、指の隙間からしっかりと結合部を凝視している。 そこは既に愛液で濡れて卑猥な音を立てながらお互いの体がぶつかり合っている。 「うっ…不知火…!」 「ッ! 司令…!!」 ドクンドクン!! 二人の声と同時に不知火の膣内に精液が注ぎ込まれる。 そして入りきらなかった精液が結合部から流れ出る。 その様も鈴谷はもはや言葉も出せずにあぅあぅと顔どころか体まで真っ赤にして見つめている。 どうするんだこれ…そう思っていた提督の腰の上で不知火が鈴谷の方を向き、ふっ…と勝ち誇ったような表情を浮かべる。 それを見た鈴谷は「う…うわぁ~~ん!!」と一目散に部屋から逃げ出してしまったのだった。 その日は定期訓練の日だったのだが 鈴谷は体調不良を申し立てて部屋に篭っていた。 もちろん体調不良ではない。 原因は朝に見てしまったアレである。 耳年増な彼女ではあるが実は自分は未体験でしかも本番を見たのは初めてだ。 朝からエンドレスであの場面が脳裏に再生されて、その度に枕に顔を埋めてジタバタしているのだった。 (す、すごかったなー…本物はあんなにエッチぃんだ…) もう今日何度目のことか、手が股間に伸びてしまう。 下着の中に指を入れ、割れ目を弄りつつもう片方の手で自分の胸を揉み始める。 「ぁん…ってゆーか…マジであんなに大きいのが入っちゃうんだ…」 そう呟きながら細い指を割れ目に沈める。 「あっ…!」 ビクッと体を反らせながら指を出し入れする鈴谷。 「…これよりもっと大きいんだよね…あんなのが入ったら…どうなっちゃうんだろう」 自分の中に肉棒が入っているところを想像しながら激しく指を動かし… 「…ッ!」 軽い絶頂に達する鈴谷。 ハァハァと息をつきながらふと時計を見る。 時刻マルヒトマルマル、それをみた鈴谷はノロノロと服装を直してぼんやりと部屋を出ていった。 今日は仕事も早めに終わったため久々に部屋に戻り早めに就寝した提督。 だが胸の上に何かに乗られているような息苦しさを感じ、目を覚ました。 そこにいたのは… 「……へ、へへー、ちーっす」 「……何やってんだ鈴谷…」 「何って…ナニに決まってんじゃん」 頬を染めた鈴谷が提督に馬乗りになり、提督に顔を近づけていた。 「ナニって…お前意味わかってるのか」 普段から遊んでいるような印象の彼女だが、朝の印象を見るにおそらく未経験だ。 今も手を股間に這わせてはいるが力加減が滅茶苦茶でまったく勃起はしていない。 「まったく…」 「わっ」 ため息をつきながら鈴谷の腰を掴んで持ち上げ対面に座らせる。 大方の理由はつく、朝にみたアレのせいだろう。 だからといって勢いに任せて彼女を抱くというのもそれはそれで何か違う気がする。 「朝のアレは…まぁ、言い訳のしようもないが」 「ち、違うし! 別にあんなの見せつけられて悔しかったとか全然思ってないし!!」 ムキになって否定しようとする鈴谷だが思いっきり悔しがっているのがバレバレだ。 「第一お前初めてだろう、それなのに焦ってわざわざ俺のところに来ることはない」 優しく諭す提督に図星をつかれて真っ赤になる鈴谷。 「…だってさ」 「ん?」 「あんなことに全然縁なさそうな不知火に先を越された上に馬鹿にされて悔しくないわけないじゃん!!」 「あー…」 鈴谷が部屋を逃げ出すトドメになった不知火の笑みを思い出す。 まぁ確かに逆の立場だったら悔しいと思うかもしれないかもなぁ、そんなことを思いながらも一応説得を続けようとするのだが… 「そ…それにさ…私、提督のこと、別に嫌いじゃないし…いいかな…って」 そのまま顔を真っ赤にして黙ってしまう鈴谷。 数秒間の沈黙 おもむろに提督が鈴谷の両手を掴むとそのまま布団に優しく押し倒す。 鈴谷は驚いた顔をするが全く抵抗をしない。 「本当に…いいんだな?」 「だ…だからさっきから…いいって言ってるじゃん…」 視線を泳がせながら鈴谷は赤い顔で答える。 「…わかったよ」 腹をくくった提督は鈴谷のブレザーを脱がしていく。 鈴谷は黙って提督のするがままに任せている。 前をはだけさせてブラのホックを外すと豊かな双丘が提督の目に飛び込んできた。 「…ヤ、ヤダ…マジ恥ずかしい…あ、あんまり見ないで…」 普段の強気はどこへやら、消え入りそうな鈴谷の声を聞きながら提督は鈴谷の胸に手を伸ばしていく。 「…あっ…やっ…ん…」 提督の手の中でムニムニと形を変える鈴谷の胸。 キメ細かい肌に汗が滲んでしっとりとした肌触りを楽しみながら 次はピンク色の先端を人差し指と中指で挟んで刺激してやる。 ビクンとはねる鈴谷の体、どうやらここが弱いようだ。 「鈴谷はここが弱いのか?」 「あっ…そ、そこダメ! はっ…あん!!」 両手で胸を揉みしだきながら指で乳首を弄る提督。 その度に彼女の体はビクビクと反応する。 「本当に弱いんだな」 そう言いながら顔を近づけ、鈴谷の乳首に舌を這わせる。 (ダメェ…なにこれ…自分でするのと全然違うよぉ…) 未知の感覚に翻弄される鈴谷、さらに提督の舌は乳輪をなぞり、乳首を甘噛みしながら先端を刺激する。 「あん!…それダメ! 提督っ…それダメだってばぁ!」 言葉とは裏腹に体をよじらせながら快感に耐えようとする。 そんな鈴谷に愛撫を続けつつ提督は空いた手を彼女の股間に滑らせた。 一瞬足を閉じようとした鈴谷だが、すぐに力を抜き提督に身を任せる。 初めて男の手を受け入れるそこは既に十分濡れており提督は数回指で割れ目をなぞった後 ゆっくりと中指を鈴谷の中に挿入した。 ズブズブと飲み込まれていく指の感覚に鈴谷は翻弄される。 (ヤダ…ゴツゴツしてて…中に引っかかってすごいよぉ…) そのまま指を前後させると奥からはどんどん愛液が溢れ出して肉襞が指を締め付けてくる。 「て、提督…」 「ん、なんだ?」 「そっちばっかりずるいってば……鈴谷何もしてないじゃん」 「あー……なら、口でしてもらえるか」 そういうとちょうどシックスナインの体勢になる二人。 すっかり張り詰めたテントを慣れない手つきでジッパーを下げ、飛び出た肉棒に鈴谷は一言 「う、うわ…きも…」 「…きもいとか言うな」 「し、仕方ないじゃん。こんなふうに見るの…は、初めてだし。え、えっと…こうかな…」 そう言いながらゆっくりと肉棒を口に加える鈴谷 咥えたままぎこちなく舌で先端を刺激してくる。 動作は拙いがそれが逆に提督を興奮させ、肉棒は鈴谷の口の中でさらにビクビクと反応しながら大きくなっていく。 (変な匂い…でもなんかすごくエッチなことしてるよね私…) そして提督も鈴谷の中に舌を挿入し、かき回し始める。 (ヤダ…ダメだって…力がもう入らないよぉ…) ガクガクと腰が砕けて鈴谷の下半身は完全に提督に預けられてしまう それでも必死に口で刺激を与える鈴谷だが、快感に耐え切れずに思わず肉棒を口から離してしまう。 「提督…ちょ、ちょっとまって…もういいから、そ、その…お願い…」 鈴谷の言葉の意味を悟った提督は秘所から口を離し、鈴谷に覆いかぶさる。 そして 「本当に…いいんだな?」 「……うん」 顔を真っ赤にしながら涙目で素直に頷く鈴谷、普段もこうなら可愛いのにな と思いながら濡れそぼった秘所に肉棒を当て、侵入をはじめる。 「…っ痛」 先端を入れたところで痛みを訴える鈴谷。 「鈴谷、ゆっくりするから力を抜け、ゆっくり深呼吸してみろ」 「う、うん。わかった…」 鈴谷の呼吸に合わせ、欲望が少しずつ侵入していく。 そして途中で先端が抵抗にあった 少し躊躇した後、力を入れて進むとプチっという感覚とともに鈴谷の体に一瞬力が入り、また抜けていく。 「鈴谷…」 「…へへっ、これで私も大人だね」 必死に笑みを浮かべる鈴谷、結合部からは初めての証である血が流れてくる。 「…もう少しだからな」 そう言うと再びゆっくりと挿入を開始し、ついに一番深くまで到達した。 「本当に…全部入っちゃった…」 結合部を見ながら鈴谷はぼんやりと呟く。 「じゃあ…ゆっくり動かすからな」 「うん…」 先ほどと同じ様に呼吸に合わせてゆっくりと引き抜き、また挿入していく。 最初の方こそ抵抗がきつかったが、だんだんと抵抗が少なくなって言うと同時に鈴谷の声にも徐々に喘ぎ声が混じり始める。 「…あっ…あっ…くぅん」 「鈴谷、もう大丈夫か」 変化を感じ取った提督が鈴谷に尋ねる。 「う、うん…まだ少し痛いけど…なんか変な感じ。大丈夫だから…動いても」 それを聞いた提督は抽出のスピードを早めていく。 必死にこらえてはいたのだが、鈴谷のきつい締めつけに既に限界が近かったのだ。 鈴谷の脳裏に朝方の提督と不知火の最後のスパートが再生される。 (あっ…す、すごいよぉ! わ、わたし変になっちゃうっ!!) 快感を逃がすまいと無意識に提督の背に鈴谷の手と足が絡まる。 提督はラストスパートと言わんばかりに猛烈な勢いで鈴谷に欲望を叩きつけていく。 コツンコツンと子宮に提督の先端が当たるたびに鈴谷の身体はビクンビクンと跳ねる。 お互いが限界に近づき… 「やっ!やっ!イク!イっちゃうぅ!!」 「クッ…鈴谷ッ!!」 ぎゅううっと締め付けられる鈴谷の膣内、ぎりぎりで抜いた肉棒から鈴谷の腹に大量の精液がぶちまけられる。 (…あぁ…すごく熱い) 絶頂の余韻に浸りながら鈴谷はぼんやりと腹に出された精液を見つめるのだった。 後始末をして服も着終わった鈴谷と頭を抱える提督。 (またやってしまった…流されるにも程がある) そんな提督をいたずらっぽい目で見ながら鈴谷は提督に声をかける。 「ちょっと提督ー。まだ肝心なことしてもらってないんだけどー?」 「…まだ何かあったのか」 「そうだよ~、だってまだ一回もキスしてくれてないじゃん?」 本番までしておいてなんだが実はあえてしなかったのだが、鈴谷としてはご不満らしい。 仕方なく唇を重ねてやる。 ごく短い時間の口づけだったが 「…へへー…提督、あざーっす♪」 鈴谷としては満足したらしい。 「じゃーねー提督、まった明日ー!」 元気よく部屋を出ていく鈴谷とは裏腹に提督は重いため息を付かざるを得ないのであった。 翌朝 執務室に入ると既に不知火が仕事の準備をしていた。 「おはようございます、司令」 「ああ、おはよう」 「ゆうべはおたのしみでしたね」 固まる提督 提督が口を開くよりも早く不知火から 「鈴夜さんが自分で言いふらしてましたから」 となんとなく予想がついた答えが返ってくる。 (あ…あのバカ…) おおかた自分が初めてだったことは都合よく隠して 「まぁ提督も私にかかればチョロイもんだし?」 みたいな事を言いふらしているんだろう。 それはそれとして… 「……」 怖い、不知火の目が。 無言のまま手に持った大量の紙束を提督の机にドスンと置く。 「では司令。この書類を『今日中』に決済お願いします」 どう考えても今日中に終わる量ではない。 「い、いや。これ本当に今日中に終わらせる必要のある……」 「 な に か 問 題 で も ?」 「はい、すいません」 そしてその日一日、提督は針のむしろに座ったまま終わりの見えない仕事に励むハメになったのであった。 後日談 見回りをしていた提督と不知火の前にまるで待ち伏せしていたかのように 「お、提督じゃん。ちーっす!」 と満面の笑みで現れる鈴谷。 「司令に何か御用ですか?鈴夜さん」 殺気満々の不知火をスルーしつつ鈴谷は提督の腕に自分の腕を絡めると 「見回り中なんでしょ? 私も行くー」 とじゃれてきた。 反対側の提督の腕を取り、鈴屋から離そうとする不知火。 「仕事中ですのでご遠慮下さい」 「えーいいじゃん、減るもんじゃないしさー」 「減ります(司令分的な意味で)」 傍から見れば両手に花の状態なのだが胃に穴が飽きそうな提督であった。 おしまい
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管理・運営スレに書き込まれたレスは議事録としても使用するので議論等に関係ない、議事録として残す際に不適当と判断されたレスは削除されます 議事録とは 【例】ある会議の議事録 部長「今月の売り上げをどうやって作るのか?」「新規先を回るのか?」 「それとも既存先にいくのか」「そうそう新規先といえば、例の大曲商事の方はどうなってるのかな?」 「最近訪問した、あの何て言ったかな?日本ベースボールの案件は取れたのかな?」 「日本ベース商事はどうなっているのか?最近売り上げが落ち込んでいるようなんだが・・・」 というように、単なる会話ログの場合、整理されていない為内容が理解し難いです。 これを「議事録」で書くとすると、以下の様になります。 当月営業拡大策について (←内容を要約したタイトル) 当月の売上目標達成の為に対象ターゲットを新規先、既存先かかわらず検討すべきである。 特に、新規先の大曲商事、最近訪問先の日本ベースボールの進捗確認が必要と考える。 加えて、日本ベース商事の売り上げが落ち込んでいる件は調査が必要である。(部長) http //www.insource.co.jp/businessbunsho/gijiroku_by_insource.htmlより引用、一部改 流石にここまできちんとするのはしんどいので、運用議論に関係ないレスを削除し議論をスリム化することで一応議事録としての体裁を整えている訳です。 まーそれならまとめwikiにきちんと議事録作れって話なんですが、そこまで器が広くないので無理です、面倒 一応、それに対するフォローとして過去ログにて削除の前のレス閲覧は可能です http //www55.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/410.html
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894 :名無しの紳士提督:2016/05/15(日) 19 50 12 ID qIwLXkwc 邂逅当初、必要以上にツンツンしすぎたせいで、最高練度間近になってもなかなか提督に素直になれない霞ちゃん 提督も彼女の気持ちに気付きつつ、素直になれない性格なのも分かってて 「秘書艦なのに提督と仲悪い霞ちゃん」という演技を楽しんでる そんな二人の情事は「上官に反抗的な部下の躾」という言い訳を隠れ蓑にした調教プレイ 罵詈雑言を飛ばしつつも、素直にベッドにうつ伏せになってお尻を突きだす霞ちゃんと 「おしおき」という体をとりながら、優しく時間をかけて幼げなアナルをほぐしてあげる提督 時折 「まだ素直に俺の言うことが聞けないか?」 『当たり前でしょ! 誰がこんな……立場を利用して無理矢理やらしいことする変態司令官の言うことなんて』 「でも荒潮曰く、俺と霞は『喧嘩するほど仲がいい』らしいぞ?」 『ば、バッカじゃないの? そんな勘違い…ホント、いい迷惑だわ!』 「そっか。そんな口の利き方をする反抗的な娘には、やっぱりおしおきが必要だな?」 『し、知らないっ……! やりたきゃやればいいでしょ、このクズ司令官!』 と、「反抗的な霞を無理矢理レイプする鬼畜な提督」という言い訳を再確認しつつ 舌と指による丹念なアナル愛撫で、霞ちゃんを優しく絶頂へと導く 絶頂の直前には恒例の言葉遊び 「ほら、もうイきそうになってる。『霞が素直に言うことを聞くなら』ここでおしおきをやめてやるぞ?」 『だ、誰が、アンタみたいなクズの言うこと、なんて……』 「聞かないんだな?」 『……///』 「それじゃ、おしおきは続行だな?」 『好きに、すればいいでしょ……ふぁ、あっ!』 彼女の意思を確認した上で、蕩けきったアナルへ舌を差し入れるディープキス そのままじゅぷじゅぷと卑猥な音をたてて出し入れされて、あっけなくアクメを迎えてしまう霞ちゃん 長く尾を引く絶頂の波がおさまるまで、切なげに震えるお尻をそっと撫で続けるのも忘れない 「おしおき」が一度で終わるはずも無く、その後何度も何度も緩やかな絶頂へ導かれ、 数時間後にはぽっかりと開きっぱなしになってしまう霞ちゃんのアヌス 完全に蕩け、括約筋を締めることもできないほど脱力しきったところでようやくアナルセックスに移行 後背位なので提督からは見えないものの、霞ちゃんの顔はすでにアナル快楽と挿入への期待に蕩けてしまっている 霞ちゃんの腕ほどもあるペニスだが、長時間にわたる丹念な愛撫のお蔭でスムーズに挿入は進む 少し腰を進めるだけで絶頂に達してしまうので、その度に挿入を止めて霞ちゃんが落ち着くまで小休止 二人の腰が密着するまで15分ほど、たっぷり時間をかけての結合 きゅうぅっとペニスを締め付けてしまい、直腸を犯している提督の雄々しさ、力強さを身体で思い知ってしまう霞ちゃん 「そろそろ動くぞ」 『ぉ、おもいきりするの?』 「まさか。生意気な娘にはじっくり時間をかけて教え込まないとな」 と理由をつけつつ、霞ちゃんの身体を労わってピストン運動もゆっくりと その代わり、これまでの「おしおき」で発見した霞ちゃんのダメな部分をじっくりと擦りあげる 最早提督に罵詈雑言を浴びせる余裕すら無くなり、涙と涎をこぼしながら絶え間ない絶頂にたゆたう霞ちゃん 『ダメ……こんなのダメぇ』と、これが強姦であること確かめるように呟きつつも、無意識に腰を突きだして深い挿入を求めてしまう 射精の直前、霞ちゃんの背中に覆いかぶさり耳元で囁く 「霞の唇、無理矢理奪っちゃうからな」 その言葉に、提督がキスしやすいよう顔を向けてくれる霞ちゃん でもあくまで無理矢理なキス アナルとペニスが隙間なく密着し、更に上の口でも繋がりながらの直腸射精 アヌスの襞をぴっちりとペニスに吸い付かせながら、提督の射精を受け止める霞ちゃん 提督が子宮側の襞に鈴口を押し付けたせいで、射精の脈動と熱さが子宮にまで伝わってしまう そのまま今日一番の特大アナルアクメに身を震わせる 十秒以上に渡る射精が終わっても絶頂の波は全く治まることなく、提督にすがるように舌を絡め合わせキスをねだる さざ波のように緩やかに続く絶頂から降りられなくなってしまった霞ちゃん アナルは別の生き物のように提督のペニスにしゃぶりつき、勝手に快楽を得てイってしまう 絶頂のたび括約筋を締めつけるものの提督のモノはびくともせず、逆に腸壁が雄に媚びるように蠢いてしまう そんな彼女に応えるように提督の腰がぶるりと震え、2回目の直腸射精 子宮に届かない射精が切なくて、その間にも優しく背中を撫でてくれているのが嬉しくて 身体はまたゆるやかなオーガスムに向かっていく 小さなお尻をふるふる震わせて、いつ終わるとも知れない絶頂の連鎖に泣きだしてしまう霞ちゃん そんな霞ちゃんの頭を優しくなでつつ、提督が耳元で囁く 「霞、仮の話だが……もし何かの間違いが起こって、俺と霞がケッコンすることになったら」 「今度はお尻じゃなくて子宮の方に、何度も何度も射精することになるんだぞ?」 その一言で、腸壁越しに子宮まで響く射精の脈動を思い返してしまう霞ちゃん 発情したまま放置され続けた子宮がきゅうんと収縮し、その切なげな振動は膀胱へも伝播し 女性器には一度も触れられないままに、潮吹きへと至ってしまう プシュシュシュシュ――――と、尿道から泡立った潮が絶え間なく噴き零れる感覚に腰を震わせる霞ちゃん 子宮の疼きを反映するかのようにその潮吹きは十秒以上続き、シーツに水溜りをつくってしまう 『あ――♥ あ――♥』と、男性の射精にも似た甘い感覚をうっとりと味わう 情事の最後にも、いつもの言葉遊び 「どうだ霞、少しは素直になったか?」 「素直になったら、こんな酷いことはもうやめてやるぞ?」 『か、身体を好きにしたって、心まで好きに出来るなんて……思わないことね』 「そっか。じゃ、明日も『おしおき』は続行だな」 「霞が素直になるか、最高練度になる日まで、毎日おしおきしちゃうから、覚悟しろよ?」 その言葉を聞いた瞬間、霞ちゃんの子宮がまたも収縮し、膣内に溜まっていた熱い愛液がびゅっと絞り出された 897 :名無しの紳士提督:2016/05/15(日) 23 01 47 ID jmrS1AOg それである日互いの薬指に指輪がはまっていた…みたいならオチがあればサイコーです。 898 :名無しの紳士提督:2016/05/15(日) 23 33 15 ID qIwLXkwc 勿論責任はきっちり取るんだけど、いざ指輪を渡したら一瞬の無言の後 「遊ばれてるだけかと思った」「なんで私なのよこのクズ司令官」と物凄い勢いでボロ泣きされて 泣き声が大きすぎてほかの娘が何事かとかけつけてきてしまい たった一日で「ケッコン初日から嫁を泣かせた提督」との噂が鎮守府中に響き渡るかんじ これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
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91 :実は『悪い男に引っかかりそうな艦娘』の話:2014/05/24(土) 21 56 57 ID o6rYhbK. (注、1レス小ネタ、微エロ~非エロ) 今回、語り手をさせてもらう若葉だ。 少しだけ語らせてもらおう。安心しろ、嘘はつかない。 例えば若葉の振りをした皐月だとか、雷とか、そんなことはない。駆逐艦、若葉だ。 だが、音声報告である以上、多少の齟齬は発生するかもしれないな。 決まってする前には他の艦をオリョール海やタンカー護衛に送り出すんだ。 見られながら、というのも好き同士なら悪くないとは思うがまぁ気にするな。 少ししたら提督から、連絡が来る。それで彼の執務室へ向かうんだ。 何故か布団がある。普段、昼間は畳まれて徹夜対策に使われるらしいが若葉がいる時は大抵正しくない使われ方をする。 僕の肩に手を回して、必ず口付けをする。それからいつものように今日は構わないかと聞いている。 大丈夫だ。そもそも、そういった行為が嫌いであれば自ら来たりはしない。 形式だけの確認を終えると互いに服を脱ぐ。たまに着たままを希望されるが汚れるのは困る。 そう伝えていたからか、手渡されたのは同型艦の服。なるほど、汚しても良い予備と言うことか、悪くない。 提督はかけるのが好きだ。まるでマーキングしたがっているように全身にかけようとする。 血や硝煙で手ばかり汚れるよりよほど良い。 今回は珍しいことに手でして欲しいと言われた。何分、若葉の手は戦うものの手だ。 そういう行為であれば器用な明石に求めると思っていた。 しばらくして得心がいった。大きくなれど出る気配がなく、そして妙な笑み。 イかせてみせろという意味か。 早くしたり遅くしたり、強く弱くと錯誤を繰り返すこと四半刻といったところか、ようやく欲望を吐き出した。 若葉の体を使えばよほど早いと言うのに、つくづく性格が悪い。 まだ、手しか汚れていないから次は何をされるのかと思えば、解放された。 服は汚れていないからこのままでも良いだろうと。なるほど。 今日はこの二番艦の格好のまま過ごせと言うのか、提督は本当に性格が悪いな。 ん? 何をしてるのかだって? 音声報告さ。秘書艦としての勤めだ。 ところで今回はどうだったんだい、司令? 陸奥か。次に期待だな。安心しろ『支援』もある。 ビスマルク、大和に大鳳。全て揃うまで付き合おう。 んっ、ふふ、くすぐったい。だが、どうも気分が高揚する。 これが奇跡のキスか。 これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
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136 :名無しさん@ピンキー:2013/08/27(火) NY AN NY.AN ID Jav7v0bd 8月25日 拾った軽空母1隻と『牧場』産の軽巡で赤城を近代化改修した。 これで装甲と対空兵装は現時点で限界まで鍛えられたはずである。 施工後に『これでもっと働けます!』と笑顔で感謝された。 なに、この強化でお前の食費が少しでも浮けば僥倖さ。 8月26日 各海域の深海棲艦に動きがあったようだ。通達によると新兵器による戦力増強か、とのこと。 早速うちの艦隊も甚大な被害を受けた。なんだあの戦艦の主砲の数は。 隊で一番の大怪我をした赤城は10時間の入渠を余儀なくされた。 女性の見舞いに男性が訪れるのはタブーだが、どうしても帰投後の沈んだ表情が焼きついて離れなかった。 非礼を承知でこっそり見舞いに行く。カーテンの向こうで彼女は『……モト提督』と寝言を口にし眠っていた。涙が見えた。 俺の名前ではない。 差し入れのボーキドーナツを冷蔵庫に忍ばせて、去った。 8月27日 戻ってきた赤城の様子が少しおかしかった。 髪を、いつもの流れるようなストレートではなく、ツーテールに結わえて周囲を驚かせていた。 ふるまいにしても、いつもの落ち着いた様子ではなく勝気な言動が目立った。 イメチェンを図って意識の段階から自らを変えようとしているのだろうか? 彼女なりの努力なら温かく見守り、サポートしてやろうと思う。 8月28日 赤城だけじゃなく島風や金剛の様子も似たように変わってきた。 あのヘアスタイルが流行っているのか?今度同僚に訊いてみるかな。 8月29日 提督の夏休み。またも瞬殺 糞が! 137 :名無しさん@ピンキー:2013/08/27(火) NY AN NY.AN ID Jav7v0bd 9月3日 やはりおかしい あれではまるであの娘が いやそんなことはあるはずがない どの提督だってやっている事だし だが自分の鎮守府の娘だけあんな風になるなんて 9月5日 どの娘の改修にも彼女を使った、それも何隻も 今になって工房に連れて行く時の彼女の顔が思い出される 酒で洗い流そうとしても無理だった 何も映さない瞳、全ての気勢を削がれ力なく運ぶ白い足、前向きな言葉とは裏腹に死人のようだった顔色 俺達を恨んでいるのか 9月14日 執務室にいるのが怖い 四六時中あの娘の声と顔に囲まれている 転属希望の書類はとっくに送付したはずだがまだ返事が来ない 郵便課の連中はなにをしている! 月 日 (読めない) 月 日 ごめんつぎはもっとだいじにするからゆるして
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提督×加賀・あきつ丸15-326の続き 472 名前:クズ ◆MUB36kYJUE[] 投稿日:2014/12/23(火) 21 40 25 ID sZrbLobQ [1/18] 326からあきつ丸と加賀の修羅場を書いていた者です。後半を書き終えたので投下します。 あきつ丸一人称 提督がクズ 浮気 の要素を含むので苦手な方は注意をお願いします。 1 初めてキスをした時のことは、今でも記憶にはっきりしているのであります。まったく自分といえば酷い有様でありまして、涙も止 まらず、鼻もグズグズ。それなのに提督殿との睦みにも意識を向けねばならないのでありますから、もう苦しくて仕様がないのであり ました。心の片隅に望んでいたものが、突然降ってくるようにして手に入った。当時の罪の意識であるとか緊張なんてものは一切吹っ 飛んでいってしまって、まず何より幸福が享楽されたのであります。 心にわだかまる欲望にだけ意識を向けた、卑しいことこの上ない精神だったと自嘲もできましょう。しかし彼が、彼の方からキスを くださったという一つの事実が、自分の胸底をどうしようもないほどに熱くさせるのでありました。このまま死んでしまってもいいと、 恥ずかしながら本気に思ったほど。不貞のキスがあれほど、甘美に思考を蕩けさせる作用をするとは、まったく意想外でありました。 夜虫の声が煩い、晩夏のことであります。彼の吐息の狭間から、その音の耳朶にできた事は、何か奇妙な感覚でありました。夏の巡 ってくるたびに、夜具の中でジィー、ジィーという音を聞きますと、脳裏にはあの時の光景がぱっと燦爛するのであります。 不思議なのは、キスの終わった後のことをまったく記憶していないという事でありました。提督殿とどのように別れどのように部屋 に戻ったのか、一切思い出されない。モンタージュされたように、蒲団の中で肩を抱き安堵と興奮に胸をかき混ぜられていた。そういう 情景へ、直ぐ繋がってしまうのであります。その夜は眠ることもできず、今後どうすればいいのか真剣ぶって考えるばかりでありまし た。今にして思えば、滑稽であります。頭の中に感傷的な悲劇の虚像を再生し続ける。己が主人公なのでありますから、まったく痛々 しいことこの上ない。例えば加賀殿を刺して憲兵に捕まり、最終的には雷撃処分される展開だとか、或いは提督殿を刺してまた処分さ れるだとか。無論、どのようなストーリーの中途にも、彼と夜を共にするシーンは必須でありました。提督殿の口説き文句を想像して は、その悲痛さに胸を痛め枕を濡らしていたのであります。まったく救いようのない、愚かしい空想癖。墓場まで黙しておくべき痴態 であります。 事実、現実は劇的ではありませんでした。以来しばらく、提督殿と自分との間には、口をきくような機会さえないのであります。鎮 守府本棟の破壊されたお陰で、艦隊運用には幾ばくか制限が出てきたのでありました。とても夏の大規模作戦を継続できる力は無く、 遠征や近海の戦闘任務に注力せざるを得ない。自分はカ号の点検や大発の譲渡等をして過ごしておりましたから、必然的に彼と接するこ ともないのであります。 提督殿と加賀殿の仲は、あの夜伽をもって修復されたようでありました。秘書の任を委ねられ、また女房役を徹するのに昏いところ もない様子。流石にもう覗き見などという愚行を繰り返しはしませんでしたが、夜半部屋にて耳を澄ませていれば、大方そういった習 慣を察することは可能なのでありました。加賀殿一人の足音しか聞こえない日は、情交のなかった日。二足分の足音の過ぎた後、一足 分だけ帰ってゆく日は、つまりそういう日なのであります。毎夜部屋にて耳をそばだて、人の同衾について思いを廻らす。罪悪感がな かったかと言えば当然否でありますが、しかし一度そのことに気が付いて以来、あのぎぃぎぃという足音を耳朶にしないことには寝付 けなくなってしまったのでありました。そして二足の音が聞こえた日には、何か自分の心根が切なくなってならなかったのであります。 当時のその感情の根源は、寂しさではないような気がします。ただ普段通りになっただけなのでありますから、なんということもな いはず。自分には背徳の悦を享楽しにゆく勇気など、からっきし無かったのであります。だからこそ直接提督殿に真意を聞くこともし ませんで、聞こえてくる足音だけで満足できたのでありました。 ふとしたら、あの夜のキスは夢であったのだと、そう思われるほどでありました。日の過ぎて行くほどに、感触の残滓は薄らいでゆ きます。体温も思い出せない。味も、慰撫された快楽も、水の蒸発して行くように段々と消え果ててゆくのであります。 口惜しさと同じくらいに安堵も感ぜられました。このまま幻ということにしておけば、道を違わずに済むのであります。自分の欲求 によって、提督殿に無用な心労をお掛けするのは心苦しいのであります。我慢をしてさえいれば、全て丸く収まるのだから、これほど 簡単なこともない。しかし、例えば提督殿のふとした反応。廊下をすれ違うとき苦しげに眉を顰めるだとか、露骨に自分から離れよう としたりだとか。あのキスが現実のものであったという証の所作を目にすると、また自分も、意識をせずにはいられないのでありまし た。度し難いことに、心緒は喜びに震える。彼がまだ自分を気に掛けてくれているのだと、勝手な解釈が先走って、胸底の火は勢いを増 す。 一ヶ月ほども過ぎた、ある夜のことであります。自分といえばすっかり習慣になってしまったあの耳を澄ます行為に没頭し、もうそ の頃には床板の響き具合によって幾らか感情の機微も察せるほどでありました。 加賀殿は最初トントントンという、きちんと地に足を突きつけるような音をしておりましたが、今ではトットットという具合に少々 軽い響き。一次関数グラフのように、日に日に決まった割合で軽やかになっていった風なのであります。あくまで予想ではありますが、 一度地に落ちた幸福度が一ヶ月の内に回復していったという証左なのではないでしょうか。もっと早くにこの習慣を始めていれば予測も 裏付けられたのでありましょうが、現状、事実は本人にしか知り得ないことであります。 提督殿はと言いますと、二日三日に一回耳にするだけでありますから加賀殿ほど正確には分からないのでありますが……最初ギシギ シ歪で不安定な音。それから段々テクテクと普通になっていったのでありますが、近頃は初期よりももっと酷く、ギリギリギリといっ た具合であります。グラフにすると上に凸の曲線であります。耳にするだけで、なにかハラハラと落ち着かなくなる、不安を煽られる 音でありました。 無論、日によってはこの流れに当てはまらない時もありました。ドシドシと機嫌の悪い音。カツカツ逸る気持ちの顕れた音。ただ大 方の心緒の動向というのは、先述の通りなのであります。加賀殿は一向良くなるばかりなのに、提督殿は急速落ちてゆく。その背反は どこか、自分には危うげに思われてならなかったのでありました。 その日の提督殿は、またいつにも増して酷い足音でありました。トットット、軽く跳ねる響きに被せて、ギリリギリリと不安定に過 ぎる音が鳴ります。皆はよくこんな危殆なる音の中眠りにつけるなと、壁の向こうを思うほどでありました。自分が敏感過ぎるだけで ありましょうが、ただならない、心臓の苦しい心地。 加賀殿の過ぎ去った後しばらく経ってから、独り廊下を戻る足音が大きくなってゆきます。毎回、彼の去るときには得体の知れない焦燥 に駆られるのでありました。早く過ぎ去ってと心の中に唱え続け、足音の小さくなってゆくに比例して安堵の気持ちがじんわりと溢れ てくる。 しかしその夜の足音は、自分の部屋の前にてぷつり、途絶えたのでありました。 息を飲むであるとか、身を固くするであるとか。如何様な言葉よりも深刻であります。部屋のノックされた時には、意識の埒外に小 さく叫び声をあげてしまったほど。一体どうしようか、どうすればいいのか思惟はぐるぐる廻るのでありますが、ついぞ答えの纏まる ことはない。二回目のノックがあり、自分は半ば反射によって戸を開けに立つのでありました。 恐る恐る開けてゆきますと、まず甘ったるい酒の匂いが鼻につくのでありました。思わず顔に手を持っていってしまった為に、 「ごめん、臭うか」 挨拶より先、彼には謝罪の言葉をつかせてしまったのでありました。 咄嗟の返答が思いつかない。当時の自分は恐慌の渦中にあった故、ただ用意していた言葉を吐くことしかできないのでありました。 「なにか、ご用でありますか」 言い放ってしまった後から、その文言の険しさ、タイミングの悪さを認識したのであります。恐らくは顰めた面のまま、かすれた小 声に吐き出しました。これでは誤解されても仕様が無い、いや寧ろ歓迎されていないと認識するのが普通でありましょう。気遣い屋の 提督殿でありますから、例に漏れず一歩後ずさり、 「すまない。邪魔した」 目を逸らして踵を返そうとしたのでありました。 「中で話を聞くのであります」 どう言い繕うか悩んだ末ようやく吐き出せた言葉は何か仰々しく、可笑しな響きを含んでいます。咄嗟に掴んだ彼の左手は余りに細 く、まるで竹のようでありました。骨折の固定具を外してまだ間もない頃であります。またすぐぽきりと折れてしまいそうな感触にぎ ょっとして、すぐぱっと手を離したのでありました。 部屋に招き入れると、それからじんわりと危機感が沸いてくるようでありました。一度キスを果たした仲において、ベッドのある空 間に二人きりでいるということ。それを意識して、何か今更どぎまぎしてならなくなったのであります。 大方歓迎していないというわけではないと察したらしい提督殿は、座卓の前にあぐらをかくと、 「酒豪に付きあわされると、ねぇ。……厭だね。もう頭が痛くなり始めた」 ベッドの淵に腰掛けた自分へ、そう話しかけるのでありました。 「なら、早く部屋に帰って寝たほうがいいのでは……」 「酔っ払うと無性に寂しくなることってない? 兎角今は、独りは厭だ」 彼の言った寂しいという語が、自分には特異な意味を持っている風に聞こえたのでありました。無用な憶測が馳騁して、さっと顔が 強張る。提督殿は目ざとくそれを認めると、 「慰めろなんて言わんよ。少し話し相手になってくれればそれで」 はにかみ言い繕うのでありました。 癪に触る物言いだと感ぜられたのは、勝手でありましょうか。自分とて覚悟の無いまま部屋に上げたわけではありますが、加賀殿を 抱いたその足に別の女の部屋に立ち寄って、挙句「慰めなくていい」ときた。もう提督殿はあの時のキスを忘れてしまったのかと、独 り沈鬱してしまったのであります。 「なんで避けていたのでありますか」 怒りの心緒が、そう口火を切らせました。いや正確に言うならば、怒らなければならないといった打算が表に出たのであります。 「そんなつもり、ないけど」 「嘘であります。自分、何度も話しかけようとしたのに結局今の今まで一言も口を利けなかったのであります」 「めぐり合わせが悪かっただけ」 「ならなんで今日に限ってわざわざ会いに来たのでありますか」 「だから、酔ってて。このままプレハブに帰るのも厭だから……」 「……質問を変えるのであります。なんであの時キスしたのでありますか」 提督殿は気まずげに顔を背けたまま、口ごもるのでありました。この局面において逃避などできるわけもなく。何時かは話さなけれ ばならないのでありますから、自分はただ黙って彼の言葉を待つばかりでありました。 正直に告白いたしますと、弱い立場の者を追い立てる、嗜虐の愉悦を享楽していたのであります。無論先行していたのは怒りと不安 でありますが、どこか心緒の片隅には溜飲下がる思いがくすぶっておりました。浮気するからそうなるんだと、伴侶の立場にないと言 えないような台詞を心の中に唱えていたのであります。 長い沈黙の後、彼のようやく放った言葉は、胸に燻る怒りの火を増大させるものでありました。 「すまない」 謝罪とは即ち悔悟でありますから、提督殿はあの時のキスを後悔しているわけなのであります。それを認知すると、堪らない屈辱に 目の前が真っ赤になる。 「謝るくらいなら、最初からしなければいいではありませんか」 まだ声を絞るほどの理性は残っていたのであります。しかし、ふと気を緩めれば彼の頬に平手を喰らわせたい衝動に身を支配されてしまうことでありましょう。感情を静謐にするには、労をとったのでありました。 「あの時は、荒れていた。ちょっとどうにかしていたんだ。すまない」 提督殿は、苦しげに言う。おそらくはこの先どう追求されるか分かった上で、尚言いのけたのでありましょう。自分も、彼の予測通りの言葉を吐かずにはおれませんでした。 「そんな程度の心持ちで自分のファーストキスを奪ったのでありますか」 「……あぁ」 「最低でありますな」 謗れば謗るだけ、また自分も惨めになるのであります。結局加賀殿に向けらているような感情を、自分は得ることができないのであ りました。 一分ほど沈黙が続きました。重苦しい空気に耐えられなくなったか、彼は腰を上げて早足にドアに向かうのでありました。 「すまない。帰るよ。……邪魔したな」 「待つであります」 咎める声音を作って言えば、流石に提督殿も逃亡しようとはしませんでした。ベッドを離れた自分は、彼の竹のような手を取って身 を寄せたのでありました。 「もう一度。キス、しなくちゃ、帰さないのであります」 今にして思えば、気障に過ぎる台詞であります。しかしまた、かなり効力のある言葉であることも自覚しているのでありました。彼 の罪悪感に滑り込んで、自分の欲求を満たそうというのです。 逡巡に目を泳がせた提督殿は、それでも優しく唇をくれるのでありました。 2 以来彼は伽のあった日には、自分の部屋に立ち寄るようになったのであります。少しだけ話をして、キスをして、帰る。そのような 習慣が生まれたのでありました。 自惚れ、ではないと思うのですが、幾ばくか彼の足音も快調になっていったように思われます。変に疲れた顔をすることもなくなり、 またこれは当然でありますが、自分を避けることもなくなりました。依然として憂いは払拭できずとも、その精神に、張りつめたとこ ろはなくなったはずなのであります。自分のおかげだと胸を張る気はありませんが、このキスの習慣が何かしら彼の心緒に影響を与え ていたことは、一つ確かな事実であります。 それからどれほど過ぎたか記憶にはっきりしないのですが、作業に流した汗が風に当たると冷え冷えする、そんな時分のこと。 カ号の定期整備のために工廠にて作業を進めておりますと、入り口にて自分を呼ぶ声があったのであります。集中しすぎていたので ありましょう。意識が引きずり戻されたかのような感覚がありまして、ふと顔を上げれば紅に光る海の稜線が厭に眩しかったのであり ます。 自分を呼んだ者の姿は逆光によって影となり顔は判然とはしませんでしたが、その声色から誰がやって来たのか察することはできま した。入り口に近づけば、ついに佇立する提督殿、その姿がはっきりと視界に収まります。 「今、暇?」 片手を挙げつつ、彼はそう話しかけてくるのでありました。 「提督殿こそ、今暇ではないはずなのであります」 「休憩時間中の外出は認められている。暇でしょ? 散歩に付き合ってくれたまえよ」 「加賀殿を誘えばいいではありませんか」 何となしに発したこの言葉は、何か彼の心に波風立てたようでありました。 「ウッ、む。……それはそうかもだけどね」 目を泳がせながら、訥弁に誤魔化す。そもそも今まで彼が自分を散歩に誘った事などないのでありますから、つまり疚しい何かを抱 えているわけなのでありました。 このお誘い自体はとても嬉しかったのであります。ですが流石に自分も、背景の不透明な状況において不貞の逢瀬を楽しめるほど、 剛の者ではないのであります。 断りの言葉を吐くより先、それを察したか、彼は手を掴むと自分を無理やりに引っ張ってゆく。 「離すであります!」 抗議の声を上げるとすかさずに、 「そんなに厭か」 苦笑交じりに言うのでありました。本心から厭に思っていないというのは先述の通り。故に自分もこの問いかけには黙して答えるし かないのでありました。 結局、十間も歩けば諦観の内に追従を余儀なくされるわけであります。提督殿も自分が抵抗の意思を無くしたと見るや、手をすぐ離 すのでありました。まぁ落ち着いて考えればただ歩いて話すだけなのでありますから、何も問題は無いはず。不貞を犯したその現場自 体を押さえられるわけではない。そう楽観したのは、今にして思えば過ちでありました。 食堂前の自販機で適当な飲み物を購入します。提督殿のおごりで自分は冷えた紅茶を、提督殿自身はマックスコーヒーでありました。 どういう意図かはわかりませんが、彼は自分に普通の恋人同士のような睦みを求めているように思えたのでありました。 「地元じゃよく飲んでたんだ。まさか西じゃ馴染みのないものだったなんて思わなかったね。……最近販売域広がったから入荷させ た」 彼は手持ちの缶をゆらゆらと揺らす。原色の黄色が毒々しく、何か言い知れぬ不安をかき立てられるパッケージでありました。 物珍しさにじっと見つめておりますと、 「飲んでみる?」 そう小首を傾げられました。 提督殿が差し出した物でありますから無碍にできるはずもなく、また好奇心もあった故、一口飲んでみることにしたのであります。周 りに人がいないか確認した後、急ぎ缶を傾けてみますと、じっとりぬめる液体が舌に猛烈な甘さを叩き込みつつ、喉奥の方へじわじわ 浸透してゆくようでありました。 余りに予想とかけ離れた味であります。まるで練乳をそのまま飲んでいるかのようでありまして、堪らずせき込んでしまう。提督殿 は自分のそんな醜態を眺めると、けらけら哄笑するのでありました。 「おいしくなかった?」 「よくこんな甘ったるいだけの飲み物、口にできますな」 乱れた呼吸に缶を突き返せば、反省の色も無く飄々と弁解されるのでありました。 「ちょっと温くなっちゃったからね。熱々ならまだましなんだけど」 辺りを凪いだ秋風が、ふとした沈黙を運んでくる。紅茶で口直しをしつつ、急に黙った彼を伺い見てみると、なにやら仔細顔に思惟 を廻らしている様子。 「どうかしたのでありますか」 そう聞きますと、彼は顔を向けて怪しく微笑むのでありました。 何か危殆な気配を覚えたのであります。一歩後ずされば、提督殿も一歩距離を詰めてくる。彼は手にしたマックスコーヒーを煽ると、 身構える暇を与えもせずに口づけてくるのでありました。 無理やり割って入ってくる舌が、あの凶悪な液を流し込んできます。口の端から一筋こぼれ出てきても、彼は一向勢いを緩めず、つ いには口の中を空っぽにしてしまったのでしょう。ただ口を口で塞ぎ、嚥下を促すばかりになりました。 人に見られてはならない状況であります。しかしそういった緊張が口腔内に広がる生々しい甘さと作用して、もうクラクラ目眩を覚 えるほどでありました。早く飲み込んでしまおうと思っても、中々喉は動いてくれない。こくこくと小さく、数十秒も使ってようやく 口を空にすると、彼の舌が確かめるように中を一巡舐めて、それからようやく解放されたのでありました。 目の奥が気持ち悪いような感覚でありました。胃に下されてしまった糖分が、頭を苛むのであります。顔を上げ、得意そうな彼の表 情を見て、半ば反射的に手を上げかけたのでありますが、さっとよぎったある思い出の虚像が腕の動きを止めました。 連合艦隊旗艦に据えられた時のものであります。提督殿が見せつけた加賀殿との睦み。彼女のした行動を、今自分はなぞろうとした わけなのでありました。妾に墜ちかけた身にありながら、彼の伴侶たる加賀殿と同じ事をする。何かそれがはばかられるべき悪行に思 え、またそういった権利も無いように感ぜられたのでありました。 一番口惜しいのは、自分のこの刹那の揺らぎを彼に察せられてしまった事であります。提督殿は口角を上げたまま、 「叩けばいい。抵抗しないよ」 そうのたまうのでありました。 「そうやって、かっこつけてればいいのであります」 自分にできたのは、この程度の非難を言ちる程度であります。 頭を撫でられ、その流れで抱きすくめられてしまう。無論身をよじって抵抗するのでありましたが、背をさする左手が羞恥や危機感 を吸い上げるようで、十秒も経たない内に諦観の心地となるのでありました。あの竹の手は視界に入れた者体に触れた者を、悉く悲哀 に染め上げるようであります。 何か急に惨めに思われました。ただキスだけを重ねてきただけの我が身が、哀しいほどに浅ましく思われたのであります。加賀殿に 追いつくことはできないという今更の事実が、裂くような痛みを伴って胸に馳騁する。 提督殿を馬鹿にできない情緒不安定さであります。気が付けば自分は、目の端から涙をぼろぼろと零しているのでありました。 「どうした?」 目を見開き聞く彼に、何も答えることはできません。何せ自分でも何が何やらといった心持ちなのであります。 彼の指が涙を拭い、再三のキスをされる。口惜く、羞恥を覚え、また危機感もある。怒りも、厭悪もあって、されど深層の心緒は悦 びに震え、また慰みに和らげられていたのでもありました。彼の舌が自分の舌を慰撫すると、むつかしい感情はたちどころに甘く蕩け ていくようであります。 3 その夜、加賀殿の足音が何時になく荒々しかったことに、自分は背筋を凍えさせたのでありました。それは驚懼というよりも、想定 していた中で最も悪い展開になってしまったという、悔恨にも似た感情であります。 今にして思えば、提督殿がわざと加賀殿に見せ付けたのではないかとも考えられるのでありますが、今更真相を問えるわけも無く。 兎角当時の自分は、現代にタイムマシンの無い事をひたすら怨むばかりなのでありました。……死さえ覚悟していたのであります。何時 ぞやに、彼女に刺されて死ぬ空想をしていたものでありましたが、もうその事に羞恥や痛々しさを感じる余裕も無い。どうにか対策せね ばと思惟を廻らすのでありました。 まさか馬鹿正直に謝るわけにもまいりません。到底許されるはずがないのであります。その日は眠れず、そして結論を得られるわけ も無く、暁の紅を目にした時には半ば絶望的な心持でありました。 恐らく、同じ負の方向に傾いた感情を有していたために、行動も似てしまったのだと思います。朝、食堂に向かう前にトイレに赴く と、目を真っ赤に腫らした加賀殿と鉢合わせしてしまったのでありました。 お互いに目を見開き、そして沈黙したまま挨拶もできない。硬直した体躯の足元を、じっとりと時間が過ぎてゆくのでありました。 結局そのまま何も言葉を交わさなかった事が、自分の不貞を覗き見られたという何よりの証拠となりました。苦々しげな表情のまま、彼 女は自分の脇を通り抜けて行ったのであります。 上がった心拍が落ち着きを取り戻すことはありませんでした。自分の部屋の中にいる時でさえ、何か睨みつけられているような気に なるのでありました。膝を付き合わせた対話の機会でもあれば、この強迫観念はたちまち具体的な恐怖に取って代わっていたのでもあ りましょうが、実際にはこのトイレでの面会以後、しばらく顔さえ見ない日が続くのであります。進展があったのは、四日後。 あの足音は日の経つごとに荒々しく、また病的な不気味さを湛えてゆく。提督殿との逢瀬もなくなり、いやそもそも彼が廊下を歩く 音はあのマックスコーヒーのキス以来ぱたり聞こえなくなったのであります。 加賀殿も、或いは浮気を黙認しようとしたのやもしれません。表面上はいつもと変わりなく、ただ彼と自分とだけが察す事のできる 不調を抱えているわけなのでありました。 彼のためとなるならば自身の思いは封殺する。そういった献身について理解の無い自分ではありませんし、もし逆の立場であったな らば自分もそうしようとしたのでありましょう。ただ問題なのは、つまり自分が陸軍艦であり、またミッドウェーにおいて彼女の矜持 を著しく傷つけた、その元凶であったということであります。自分は毛頭その気はないのでありますが、彼女からすれば一時といえ旗 艦の座を奪い、挙句今度は彼を奪おうというのであります。忍耐なぞ、そう長く継続するわけはないのでありました。 毎夜ベッドの中にてビクビク身を震わせていた自分は、とうとうその音を耳朶にしてしまったのでありました。決して衝動的、感情 的なドタドタという音ではありません。ギッシ、ギッシ。厭にゆったりとした、それでいて何時もよりはっきりと響く幽鬼のような音 であります。一歩ずつ近づいてくるたび比例して背筋の痛くなってゆくほどの、冷たい覇気を放っている。 どうか通り過ぎてくれと心の中に唱え続けたのであります。甲斐あってか、その夜は対面せずに済んだのでありますが、自分の部屋 の前で一度ぴたりと足音の止んだ時などはもう生きた心地がしなかったのでありました。 彼女の過ぎ去ったおよそ三十分の後、再び足音が聞こえてくる。もうどんな響きであったかは言いますまい。提督殿は躊躇いの間を 充分に開けてから、戸をノックするのでありました。 その顔色は青白く、しかし表情は寧ろ軽いものでありました。もうこれ以上落ちることはないといった後ろ向きの安堵が、彼の憑き 物を落とした風なのであります。 「よく来れましたな」 自分は先ず開口一番にそう言ったのであります。皮肉でも嫌味でもなく、もっと純粋な感想でありました。提督殿は諦観の微笑をも ってして応え、無言の内に部屋に入る。もう、断りをいれないほどに慣れていたわけなのでありました。 いつも通り自分はベッドに腰掛け、彼は円卓の前に胡坐をかく。提督殿は卓の埃を手で払ってから、視線も寄こさずに口を開く。 「お前を抱いたと加賀に言ったよ」 一体自分は、その言葉をどのように受け取ればよかったのでありましょうか。喜べばよかったのか厭悪すればよかったのか。その時 の自分は、何か彼に憐憫の情を抱いたのでありました。先述の“後ろ向きの安堵”を得たいが為に、自分から自分の首を絞めにゆく。 しかもそういった行為に救いを幻視しているらしいことが、益々惨めに思えたのであります。 何故嘘をついたのかなどとは聞けません。不貞を犯したとて体を重ねてさえいなければ、その罪は軽くなるのでありましょうか。無論、 この問いの答えは否であります。妻帯者に恋慕を抱く時点で、それは同等の罪なのであります。ましてや幾重にも接吻を重ねた身、懺 悔さえ許されない立場にあることは自明と思われる。 故に自分は、ただ彼を励ますばかりなのでありました。 「滑車でありますな。提督殿は」 「滑車?」 「ずっとひたすら同じところをぐるぐるぐるぐる悩んでいるのであります。前に進むこともせず」 「うん」 彼は苦々しく、眉を顰める。 追い詰められた者が即物的快楽を求めるというのは、感情を持つ生き物の共通する悪癖なのでありましょう。自分は寝巻きの上着を はだけさせ、彼を手招くのでありました。 「嘘をつくのは、よくない事でありますな」 何とか羞恥を押さえ込み、気障ったらしく、誘惑の言葉を吐く事に成功したのであります。彼は諦観の微笑を持って、自分を褥に押し倒 すのでありました。 キスには慣れていたはずなのでありますが、天地の感覚の差異というのは中々に捉えづらいものでありまして、唇の端から唾液の零れ 出てゆく度、口惜しさに胸を焼かれるようでありました。意外だったのは、彼が白磁の陶器を取り扱うように自分を愛撫する事であり ます。初めてだったので、気を遣うのももっともではあったのです。しかし以前覗き見た彼と加賀殿との行為がまだ頭にはくっきりと 残っていたので、普通に優しくされるという事へ漠然とした疑問を抱いてしまうのであります。無論それについて不満を抱きはしませ んでした。安堵しましたし、嬉しくもあったのであります。 提督殿は体勢の窮屈さを意にも返さない手際の良さにて、するする服を脱がしてゆく。とうとう身に覆うものが無くなってしまうと、 差し迫った恥ずかしさに息も切なく、自分は目をぎゅっと閉じて逼迫した心緒の痛みをひたすら耐えるのみとなりました。 彼の接吻が鎖骨や首筋を撫ぜる度、自分の吐息の熱っぽさを自覚して、またそれが羞恥を掻き立てるのでありました。漏れ出そうと する恥ずかしい声を必死に肺腑へ押し戻していれば、提督殿は目ざとくその意図を察して意地悪をしてくるのであります。突然に腰へ 手を伸ばしたり、果ては同じ場所へ口付けてこようとするのでありますから、自分はもう堪えられない。 実況やら焦らしやらにて散々に嬲られ尽くされ、もう思惟も霞だち始めた頃合、ようやく提督殿は段階を押し進めたのでありました。 幾ら総身が悦楽に蕩けていたといえ痛みは烈々と差し迫り、刹那のうちに意識もはっきりとしたのであります。 自分が痛みに鈍感であったのならば、どんなにかよかった事でありましょうか。それはただ熱く自身を貫くそれが、耐えがたいほど に辛かったという訳なのではありません。ふわふわとした多幸感から急速に引き戻された思考の中、つい見てしまった彼の瞳。虚ろに 濁るそれが映していたものは、決して自分の泣き顔などでは無かったのであります。慣れ親しんだ加賀殿の、緩び媚びた表情を幻視し ているに違いありませんでした。 明確な根拠などはありません。ただ、克明に感じ取ったのであります。自分は慰めの道具として必要に思われているに過ぎず、提督 殿の想いは常に加賀殿と寄り添っていたのであります。重ねてきたキスも今の繋がりも、仮初の戯れ事。自分にとっては重要な事なの であったのだとしても、提督殿も同じ感慨を抱いているのかと言えばそんなことはない。 心の痛めば痛むほど、つまりそれが自分の浅ましさであります。抱くべきでない期待を勝手に抱き、叶うわけのない願いを夢想して、 それらが瓦解してゆく事に悲痛を覚えているのでありました。涙の滂沱とするその理由が彼に伝わらない悲哀というのは、しかし相応 しい罰なのでもありましょう。彼の精を迎え入れ、腹底の温かくなるのに比例して、虚しさも増大してゆく。キスをせがめば応えてく れるのではありましたが、果たしてそれは自分の望んでいたものとは少し形の違うもののようでありました。 4 朝、隣に眠る彼の顔を見、何かまた悲しくなって涙が目尻を滑り降りる。昂ぶりの冷めた寂寞が、下腹の痛みをより苛ませるような 感覚でありました。時計を見ればもう四時半をまわったところ。起床時刻は六時でありましたので、二度寝してしまうのも不安なので あります。まさか艦娘のがやがや群がる廊下を帰らせるわけにもいかないわけでありました。 身を起こし、彼の肩を揺すぶると規則的な寝息がぴたりと止む。倦怠な様子に瞼を持ち上げた提督殿は自分の姿に焦点を合わし、途 端むつかしい表情をとるのでありました。 「もう、帰った方がいいのであります」 ベッドから抜け出そうと身をよじるも、しかし彼の左腕が手首を掴みそのままかくんと引っ張ってくる。体勢を崩され、自分は堪ら ず彼の胸にしなだれます。髪を梳かれ頬を撫ぜられ、その心地よさに思わず瞼を閉じかけたのでありますが、ある思惟が頭をよぎった 為にされるがままである事へ反発したくなったのでありました。つまりこんな恋人同士にするような睦みなど、ただただ虚しいだけな のであります。 掛け布団を剥ぎ腕の範囲から離脱すれば、提督殿も渋々起き上がってくれるのでありました。暫時気だるい沈黙が流れ、不安と、そ の不安自体無価値なものであるという諦観の感とが胸の内に充溢してゆくのでありました。ゆったりとした絶望の心地が堪えきれないほ どに膨張して、 「これからどうしてゆけばいいのでありましょうか」 思わずそう泣き言を言ちると、彼は頭を撫でるだけ、依然黙したままであります。 最後に軽く触れ合うだけのキスをして、提督殿は立つのでありました。戸口にまで近づいた段にて、 「また、来てくれますか」 そう問うた自分は、その言の葉の言い終わる前より自己嫌悪に苛まれていたのであります。果たして薄弱な意思を抱えた首肯はそれ でも幾らか自分を励ましてくれました。来るべき対話の時へ、改めて覚悟を定めたのであります。 朝食の後、変に間のある自由時間。何をするでもなく部屋にてベッドに横たわると、彼の香りの残滓が鼻腔をくすぐるのでありまし た。静謐を取り戻した心は、幸福を享楽するのであります。長閑は自身の欲望を宥めてくれて、そしてその菩薩のような無欲の境地に おいては、慕情の根源。つまり献身の念が表にたつのでありました。 彼が求めてくれる限り、自分もまたそれに応じよう。いつか彼が自身の疾患を克服して、自分を必要としない時が来るように。未来の 為に、心の痛みを捧げよう。穏やかな心緒にそう思いを決めたのでありました。 どれほどか経ち、戸をノックする者がある。誰かは分かっております。恐怖も焦燥も無いのでありました。自分は彼女を部屋の中へと 招き、円卓を挟んで対面したのであります。 加賀殿は真っ赤に腫らした眼に自分を睨みつけると、怒りを隠そうともせず険しく口火を切りました。 「どういうつもりなのかしら」 「それは、提督殿に聞いて欲しいことでありますな」 挑発の言を間髪入れずに発すると、しかし加賀殿は下唇を噛んで堪えたようであります。溜息一つ、大仰に吐き切り、拳を握りこんで から一寸身を乗り出します。 「認めるのね」 「何を、でありますか」 「あなたは、提督を誑かした」 「……はて? なんのことか」 「もう全て彼から聞きました。今更、誤魔化そうとしないでもらえるかしら。……事実確認のためにここに来たのではないわ。これ 以上私の提督を貶めるなら、私はあなたに容赦しない。それを伝えにきただけ」 そういった物言いだから気まぐれも起こしたのでしょうにと、喉に出かかった言葉を飲み込んで、しかし自分は一向に収まりつかな くなってしまった。冷静ではいられないなと、自分の心緒を客観視した気分でありました。 躊躇したのではありますが、 「加賀殿は、勘違いしておられる」 この言葉を吃りぎみに言い放ってしまいますと、もう昏い熱情を押さえ込むことは不可能でありました。 「どういう意味かしら」 「自分が提督殿を誘惑したのではないのであります。彼が自分を欲して、そして自分は応えた。ただそれだけのこと」 これを耳朶にした加賀殿はまず吃驚したように目を見開いて、しばし黙しておられた。言葉の理解が追いつくにつれ、次第次第に殺 気を迸らせ始めたのであります。 端から負けにゆく恋慕でありました。故にこの局面においてだけは、たといどれだけ罵られようとも、たといどれだけ堕ちようとも、 引くわけにはいかなかったのであります。妾が正妻に意見するなどおこがましい事なのでありましょうが、しかし自分は加賀殿以上に 彼のことを見てきたのであります。 「せ、責任逃れしているように、聞こえるけれど」 怒りに震える唇が、彼女を訥弁とさせたようでありました。自分はそんな加賀殿を見据え、遂に言ってしまった。 「無論、罪はあります。提督殿にもありましょう。……しかし自分に言わせれば、責任逃れをしているのは加賀殿。あなたのように も見受けられる」 「な、何が……」 「そもそも彼の精神の変調に気が付けなかったあなたが悪いと言いたいのでありますよ。あの提督殿がただの気紛れで不貞を犯すと、 本気でお思いなのでありますか? 彼の抱えていたものを見ようともせず察そうともせず、自分だけがいい思いをして、挙句が“私の提 督を誑かすな”であるのだから、妻帯者というのは大変でありますな」 自分でも驚くほどに、性格の歪んだ声色でありました。 「それ以上口を開いたら、許さない」 冷え冷えとした加賀殿のすごみももう耳朶にはできず、自分はただ純粋な嘲笑の心地にて彼女を謗ったのであります。 「そうやって鈍感だから、彼の態度の変わったことにも気が付かないでいたわけでありますな。……提督殿が初めて自分に口付けて くれたのは、ミッドウェーの終わった直後なのでありますよ」 卓が吹き飛び、加賀殿が自分を押し倒す。首に掛かった手の圧力が、自分の意識を薄れさせてゆきました。許さない、許さないと叫 び連呼された言の葉は、今でも耳にはっきりとしているのであります。 物音を聞きつけた艦娘が部屋に入り、加賀殿を取り押さえ宥めたとのことであります。だから依然自分は生きているわけなのであり ますが、その場面は自分の記憶の中からは抜け落ちていて、恐らくもう意識の落ちていたということなのでありましょう。ただ刹那の 勝利に酔いしれながら生命を投げ渡していたわけなのでありますから、滑稽な事この上ないのであります。 未だに関係は続いているのであります。夜を越すたび、いつかの終端が迫ってきます。この頃は提督殿も精神の健康を取り戻しつつ あり、つまり自分が必要とされなくなる日も近いのでありましょう。……万事、これで良いのであります。一時の快楽が自分には過ぎ たる幸福で、それが永劫続くとなればとても堪えきれるものではない。正しい日常が戻るだけ。憂いを抱く必要は無いし、寂寞に思う ことも無い。 気が付けばもうあの因縁のプレハブも壊され果てて、自分と彼とを繋ぐ絆に何の証左も無いのでありました。
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■金剛型姉妹ネタ 323 :名無しさん@ピンキー:2013/10/11(金) 21 48 14.23 ID 1fsvDKeT 提督が他の姉妹にじゃれつかれてるのを見て最初はぐぬぬってしてたのに何時の間にか好きになってしまった比叡さんのSS下さい 324 :名無しさん@ピンキー:2013/10/11(金) 22 00 30.34 ID 8/YMNINo 比叡はそんなこと言わない …うん、ごめん なんというかつい 325 :名無しさん@ピンキー:2013/10/11(金) 22 34 58.69 ID N+u+5Qxm 324 それ地味にツボるからやめろww 嫌な事件だったね… 326 :名無しさん@ピンキー:2013/10/11(金) 22 42 49.93 ID mOSP1AEm 正直申し上げると比叡は書きづらい。 比「もおお、金剛ねえさまはなんで提督がいいのかなあ。誰とでも仲良くしちゃって、艦むすなら誰でもいいみたいなのに」 霧島「そうかしら? 提督って、男としてはかなり素敵よ。すごく気づかってくれるし、マメだし、私たちと仲良くしてもしすぎないし。あの距離感、わたしは好きだけど」 比「霧ちゃんもなのお?」 霧「秘書艦をやっても居眠りばっかりじゃ見えないと思うな、あの人の良さ」 比「ぐぬぬ。よおし、提督だって男なんだから、ちょっと迫れば簡単にデレデレするんだってのを、金剛ねえさまに見せてやるんだから!」 いろいろあって結局 比「あっあッこれ提督のコレすごいっんあっあっ男の人って気持ちいいっあんッだめえもうダメえっ」ドゥビュルブルブビビュルブブリュ さらにいろいろあり 比「金剛ねえさまには負けません!」 金剛「ワーオ、妹から宣戦布告されたデース! ワッタハプン!?」 みたいなのしか思い浮かばん。 327 :名無しさん@ピンキー:2013/10/11(金) 23 03 38.59 ID eyXQD3sb 別バージョンだと金剛と提督に二人がかりで食われるパターンだろうか 328 :名無しさん@ピンキー:2013/10/11(金) 23 07 22.20 ID hLV6pst+ もう5Pでいいと思う 331 :名無しさん@ピンキー:2013/10/11(金) 23 30 00.03 ID 2XzuCf5B 「でもさぁ姉様。あんな男のどこがいいのよ?」 唐突に言葉を発したのは、金剛姉妹次女の比叡。 彼女は姉である金剛が提督と呼ばれる男に首っ丈なのが気に入らないのか、そんな質問を金剛にした。 「ン? あんな男? もう一度言ってみなサイ?」 「いや、貶す様な意味合いではなくて……その。彼の魅力というのかな」 威圧するような態度に真顔でもう1回言ってみろという金剛の様子に、地雷を踏みかけたと比叡は即座に否定をした。 なるほど、そういうことネ! といつもの金剛に戻り、ほっと溜息を吐く比叡。 さしずめ、こんなつまらないことで姉様に嫌われたらたまったものではないといった様子か。 「ンン~……そうだネ~~……」 なんだよ自分でもわからないのかよ、なんて比叡は思わない。 ただ、魅力も無いような男をなぜ慕うのか理解に苦しむというような面持ちで、返事を待った。 「……形容し難いネ」 つまり、どういうことなのでしょうか……? そうぼそりと呟くと、金剛が今まで比叡には見せたことのない笑顔でこう答えた。 「一緒に居ると、なんだかすごい元気が出るのデス! そう、とてもwarmな気持ちになるのデス!」 姉様が提督のことを想ってこんな表情をするなんて、と考えいるのか、彼女からはドス黒いオーラが滲み出ている。 「! 比叡、提督の秘書になるネ! 提督と一緒に居れば、提督の魅力が理解できるはずデス! 我ながらGood ideaなのデース!」 比叡は思い至った。それもそうかもしれない。 姉様をここまで虜にするあの男には、何かしらの魅力が絶対にあるはずなのであると。 姉を誑かす男が憎いというよりは、自分もあの人のことをもっと知りたいという欲求のほうが勝っているようであった。 もとより信頼はしているのであるし、言われてみればなんとなく自分も理解できるかもしれない。 もしかすれば、姉様のいう暖かい気持ちというのが、わかるかもしれない。 「それはいいですね、姉様。早速提督と掛け合ってきます」 ガンバッテネ~と応援してくれる金剛を背に、比叡は部屋を飛び出した。 この後、姉を出し抜いて比叡がその男と共に一夜を過ごすのは、そう遠くなかったとさ。 だめだ全然考えられん。始めてまだ3日じゃ厳しいものがあるな。 338 :名無しさん@ピンキー:2013/10/12(土) 01 24 54.18 ID x/hsQwn+ まぁ確かに榛名が未だ0ってのも意外よね 「本当にいつも助かってる。お礼に何かしてやろうか?」 「そんな…当然の事をしたまでです。特別なお礼なんて、榛名にはもったいないです」 いつものように健気な榛名につい軽口をたたいてしまう。 「ははは、そう言うな、なんなら添い寝でもしてやろうか?」 冗談で言った言葉に榛名は顔を真っ赤にする。 「す、すまん。冗談にしても質が悪かったかな…ははは」 「え…じょ…冗談…ですか…」 俺の言葉に明らかに落ち込む榛名、慌てて言い訳をする。 「い、いや!冗談というかだな、榛名さえよければ…その…」 慌てて言い繕う俺を顔を赤らめた榛名が見つめる。 「…提督は優しいのですね。榛名にまで気を遣ってくれて その…榛名でよろしければ…」 そういう榛名にこちらも顔を赤くしてしまう。 「あ…うん。…その…じゃあ今晩な…」 みたいな純愛路線パターンAか 「ヘーイ、テートクゥ!!」 「ん? 金g…グハッ!」 ゴツンという大きな音。 振り向いたとたん勢いよく抱きついてきた金剛の不意打ちで廊下の壁に後頭部をぶつけ 俺の意識は遠のいていった…… 「…お、お姉さま…」 「ア、アハハハハ…ちょ、ちょっとした happeningネ」 「い、いえ。それよりもはやく医務室にお連れしましょう」 榛名の言葉にん~…と金剛が腕を組んで考え込む。 「どうせなら入居したほうが早く治ると思いませんカ? Early! 提督をお風呂に連れて行きまShow!ほらほら、榛名も手伝うネ!」 「え!? で、でも…」 姉のしようとしていることを予測して頬を赤らめる榛名。 「ン~、榛名ってば意外と鈍いんデスネ~ 榛名もテートクの事が好きだって言うの、ワタシ知ってますよヨ?」 「そ…そんな…榛名は…」 「ワタシとしてはテートクとのLoveも大事デスけど 榛名の気持ちだって同じくらい大事デスからねー」 「お姉さま…」 「ほらほら、わかったら早く運ぶのを手伝うネ!」 「は、はいっ!」 みたいななし崩し3PのパターンBと Bに比叡霧島加えたパターンCといろいろ思いつきはするのだが どれがいいかねぇ まぁ今日は酔っ払ってるので書くとしても後日ではあるのだが 339 :名無しさん@ピンキー:2013/10/12(土) 01 33 03.16 ID 4MwrYHQo 338 全部書いたら選ばなくていいんじゃん? とりあえずA 340 :名無しさん@ピンキー:2013/10/12(土) 02 08 29.33 ID Zg9U00F3 非番の日に外出許可をもらい、街に買い物に出た榛名(非武装・私服)は、 商店街の福引きで特賞のペア温泉旅行(海辺の旅館で二泊三日)を当ててしまう。 これをふだんお疲れな提督にプレゼントして骨休めしてもらおうとしたが、 「ペアならお前と行きたい」と言われて榛名大興奮。 かわいい水着とランジェリー(翔鶴の入れ知恵によりヒモぱんつ)を買って、提督に操を捧げる覚悟完了。 榛名ちゃんの二泊三日の大冒険。 うん、これ長くなりそうで大変だ。 ■酔っ払った時の金剛四姉妹の反応 375 :名無しさん@ピンキー:2013/10/12(土) 23 56 40.94 ID kpRMIzTw 酔っ払った時の金剛4姉妹の反応の想像 (全員提督好きという前提) 金剛 「ヘーイ、テイトクゥ!飲んでマスカー? とかいいながら抱きつきながら酌してきそう、あんまり普段と変わらない。 あと地味に酒に強そう。 むしろ酔った提督が襲ってきたらウェルカム 比叡 「提督ー! あんまりお姉様に対して変なことをしようとするのは許しませんよー!」 とか絡んできて、「え、変なことってどういうこと」ってとぼけて聞くと真っ赤になって口ごもっちゃって 「へ、変なことは変なことですっ!!」って拗ねたところを「わかったわかった」って頭撫でてやると 頬をふくらませながら赤面で撫でられるがままという感じ。 榛名 上のSSとかもそうだけどたとえ乱れるまではいかなくても 酔うと一転ずんずん迫ってきて「提督は榛名のお酒が飲めないんですか~?」 とか据わった目で言ってきそう。次の日に記憶が残っていないタイプ。 霧島 超酒豪っぽい。 提督を酔わせてここぞとばかりに酔ったふりして自分から誘惑して 仕留めようとしてきそう。 「計算通り(ニヤッ」 ってなんとなく思った 376 :名無しさん@ピンキー:2013/10/13(日) 00 04 26.37 ID cahhyUFt 375 黒霧島か(酒だけに 377 :名無しさん@ピンキー:2013/10/13(日) 00 23 03.70 ID RAy/Xb/A 金剛「ワタシ最近、ジャパニーズ・サケのおいしさを勉強してマース! そこで提督としっぽり飲むためにコレ買ってきたね! 岡山県金剛酒造の純米吟醸『金剛』デース!」 比叡「ええっ、金剛姉さまもなの? 私もこ、これ持ってきたの。滋賀県の『比叡の寒梅』・・・」 霧島「男は黙って焼酎よ提督! 『黒霧島』、はいっどうぞ!(ドンッ)」 榛名「群馬県のお酒です・・・本醸造『榛名山』」 陸奥「青森県、特別純米酒『陸奥八仙』、出します!」 提督「俺はたしかに日本酒好きだがな、殺す気かお前ら!」 379 :名無しさん@ピンキー:2013/10/13(日) 00 24 52.15 ID UP7AyB3Y 霧島さんが殺しに来てる…… そして1人くらい呉鶴もってきてくれても・・・ 380 :名無しさん@ピンキー:2013/10/13(日) 00 44 06.99 ID RAy/Xb/A そして最後に無言で『加賀美人』のビンを差し出す加賀ちゃん。 381 :名無しさん@ピンキー:2013/10/13(日) 00 45 05.27 ID cahhyUFt 軽巡以上は大概「酒」になってる気もする 382 :名無しさん@ピンキー:2013/10/13(日) 00 54 10.57 ID RAy/Xb/A そのものズバリ艦名が酒の銘柄っていうのは『金剛』以外もけっこうあって、 『さみだれ』っていうのもあるし『朧』や『あぶくま』、『如月』とかもあるのよ。 艦むすの名前は銘にしやすいのばっかりなので。 383 :名無しさん@ピンキー:2013/10/13(日) 02 16 05.64 ID 2vfJOAE5 霧島は「黒」以外にも、「赤」、「白」、「金」があるしな。 ■ひええ・・・ 469 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 14 00 41.26 ID 71uNFyTw 金剛に榛名、霧島、摩耶、日向、足柄がSS主演処女を失った今、 ,,. . ≧=-=ミメ //〈/ 7 ⌒ .`ヾ、 __i. //. . . ./ . . ./\. . .V 〔__}]. ..厶イ. /し ー 、 .}ヘ /. /厶イ/ ● ● ト{__/ . 厶/. 人_ u /`ー‐ 、u |i . 厶イハ小 、 / / U八 . /Vヾト、`二 ´_,,.イ/ / ∧ ∨ヽ//|⌒\ /⌒\/ ハ ∨// .|、 /ス 470 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 14 05 27.44 ID +PSK/ZmK ひええ・・・ 471 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 14 41 29.62 ID Nk413wTj 比叡さんはハプニングπタッチや裸見られるぐらいないと意識しなさそう 472 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 15 58 48.22 ID BicaHjde 「金剛お姉様は渡しませんよ!」とライバルとしか思われてないのをいきなり布団に押し倒して「……へっ?」 ってのはどうでしょ>比叡さん 473 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 16 05 17.76 ID 71uNFyTw ,,. . ≧=-=ミメ //〈/ 7 ⌒ .`ヾ、 __i. //. . . ./ . . ./\. . .V 〔__}]. ..厶イ. /し ー 、 .}ヘ /. /厶イ/ ● ● ト{__/ . 厶/. 人_ u /`ー‐ 、u |i . 厶イハ小 、 / / U八 472 もうちょっと・・・・・・なんかない? . /Vヾト、`二 ´_,,.イ/ / ∧ ∨ヽ//|⌒\ /⌒\/ ハ ∨// .|、 /ス 474 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 16 08 22.49 ID +PSK/ZmK 比叡単体で考えるのは難しそう 金剛と一緒にだったら丸く収まりそうな気もしなくもない 475 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 16 08 38.90 ID FY9COVzV やはりここは金剛ちゃんの手を借りるべきです 提督と金剛ちゃんがやってるのを見ながら1人でいじってるところで 声漏れからバレて三人目として巻き込まれるパターンです 476 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 16 20 15.14 ID 71uNFyTw _ _ | / ミ ヽ /ノ |/ )ノ ィ´ / _ _ ィマ ィ´三 ̄三ミヽ > / ´ ィ / ̄ ̄\ / // ..マト >´ ィ ィ ´ \ ヽ´ソ i /|/i リハ ム ィiィ  ̄ ̄ ̄ノ 、 ` ― つ \__/ リ |イ/\! ノ リム ム > ´《 ∨ /  ̄, 、 ヽ、 ― ´ イ三ムゝイ ィム芯 ´ ―‐| ∨ム / ヽ ∨ィ‐ < >、ヽ ――、 /三ト彡ノ リ´`i ト、ゞ=ィ ` 芹ム.| ト ム / 、 |> ´ ` ノ ゞマ彡イム i | | ヽイ/ | マヽ / ̄  ̄ \ \ | | マ彡ノ三三ゞi | | ( ソ / | __ィ´イ / \ ゝ、 ノ イイ三彡川 | | ト ィ ´ ` フ//ハ ./ \ ` ゝ ´_/ ゝ≡イゝ川 | | | `>,ィ ´ / //ィ / ゝ、 \ `ソ ̄ ̄ / / | | | / / i /// ―、___ ィ――‐ ´ / /| | | ィ / / | i / / ―、_/ / / / ´/ / イ/ /. / 、_ ― ´ > / ´y ´〆〆 ハ .// ィ‐. / / / / 〆〆 / i `ヽ, /// / 475 それ採用デース! / ´ | / /}{ 〆〆ィ | | ィ/// / | ´ ∨ / { ゝ〆 |. | | レ > ヽ/ } / . . . .ヽ.|. | / ィi 478 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 17 43 18.58 ID FY9COVzV これは 476に期待してもいいんでしょうか 480 :名無しさん@ピンキー:2013/10/14(月) 19 29 45.87 ID REZ2lAWC 475 いや、言い出しっぺは君だろw
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753 名前:名無しの紳士提督[sage] 投稿日:2015/04/26(日) 22 40 04 ID A.Hm0BbU [1/9] 宗教ができる程多数の提督を骨抜きにした艦娘は魔性と言えるのではなかろうか。 世に文月のあらんことを ある意味鬱&ガイキチ?なネタ投下します 754 名前:名無しの紳士提督[sage] 投稿日:2015/04/26(日) 22 42 38 ID A.Hm0BbU [2/9] 発 第404特別任務艦隊442分遣隊研究班 軽巡洋艦大淀(ID:YTS731141CL) 宛 第404特別任務艦隊第61研究室主任研究官殿 鎮守府内執務室内装の提督及び艦娘の行動への影響に関する実験についての報告 上記の実験について簡潔に報告する。 本実験は、執務室の内装の変更が提督及びその指揮下にある艦娘に対してどのような影響を与えるかについての実験である。 今回の実験は、以前より所謂「教室」と呼ばれる内装の組み合わせ(以下教室)について 以前より羽黒、香取といった特定の艦娘の提督との肉体関係に発展する確率が他の内装の組み合わせ(以下内装)と比較して格段に上昇する現象が 報告されていたことから、その他の艦娘における変化の有無を調査することを目的としている。 実験においては無作為に選定された被験艦隊(以下艦隊)及び、同艦隊指揮官(以下提督)を『バーカウンター設置による提督及び艦娘の嗜好、性格及び行動の変化に関する実験』 と同様の条件で教室での変化の有無を検証する(艦隊及び提督に関しては資料1を参照)。 尚、実験を行った艦娘の人数が多数であるため、本報告においては特異な例のみについて取り上げる(全艦娘及び提督の調査結果は資料2を参照)。 「あら、模様替えなさったのですね」 「ええ。なんでも上から実験に使うからと…」 落ち着かなそうな提督を見て、鳳翔はくすくすと笑う。 「しかし、何と言うかこう……落ち着かないというか…」 「あら。なかなかお似合いですよ。先生」 「よしてください。尻がかゆくなる」 苦笑いする提督だが、鳳翔の方は意外にも生徒用(と思われる)机にちょこんと座っても違和感がない。 正規空母たちに比べれば小柄な彼女だが、年嵩な印象に反して何とも奇妙なものだ。 「ところで提督、あの子たちはどうです?」 「ええ。みんな良くできます。遠征でもだいぶ助かっていますよ」 鳳翔の言うあの子たちとは、彼女が以前引率していた駆逐隊のことである。 この艦隊に加わった駆逐はみな、彼女か天龍の引率で遠征をこなすのが恒例となっていた。 「やはりコーチが良いと違いますね」 「あら、そんな。うふふふ」 ちょっと恥ずかしそうに、だが嬉しそうに笑う鳳翔。 柔らかな日差しの下、和やかな雰囲気が満ちていた。 事例1 軽空母鳳翔(ID YT107442815CVL) 艦娘の性格、行動については変化が見られないが、提督は実験後に「保護者会や父母面談を髣髴とさせる」と述べており、 教室が提督に教員あるいはそれに類するものの疑似体験をさせるという結果が得られた。 尚、この実験結果は被験者である艦娘の性格及び外見的特徴に起因するものと推測される(資料4)。 「てーとくー、なんか瑞鶴ちょっと退屈なんだけど~、ふてくされるぞー」 「もう少しで終わるからちょっと待ってろ」 座ったまま伸びをしながら瑞鶴がごちる。 何もしないで座ったままというのは苦痛に感じる者は多い。 ましてや、唯一同室の男が相手をしてくれず、無駄話にものってこないとなれば自分の仕事が終わってしまえばひどく手持無沙汰なものだ。 机に頬杖をつき、特に見るでもなく窓の外をぼんやりと眺める瑞鶴。 (いい天気だなぁ……あ、あの雲加賀さんに似てる) 不意に書類から顔を上げた提督の目に、そんな瑞鶴の横顔が映る。 ぱっちりとした大きな目、翔鶴の横に並んでいると目立たないが、意外にも色白な頬とその頬を覆っている弓を引く割に細く見える指。 健康的な色の唇は差し込む日光を受けて瑞々しく縁どられている。 案外、それらしく着飾らせて何も知らない人の前で黙っていたらどこかいいところのご令嬢に思われるかもしれない。 「ん?何?提督さん。私の顔に何かついてる?」 提督の視線に気づいた瑞鶴がふとそちらを向く。 「いや、可愛いなと思って」 「なっ!?」 提督はほぼ無意識のうちに言った。 ぼーっとしていたのではあるが、目の前の相手が白い頬を赤く染め上げ、耳の端まで茹だっているのを見ても、 まさか自分が思っていることをそのまま口に出したとは気付いていない様だ。 「なっ……えっ、かわい……と、突然何言って……っ!」 「うん?俺声に出してたか?」 「えっ……もうっ!馬鹿ぁ…」 一人赤くなってぶつぶつ言っている瑞鶴。 「提督は不意打ち過ぎるよ……」 「不意打ち?何がだ?」 精神疾患を疑うレベルに鈍い提督。 事例2 正規空母瑞鶴(ID YT302142739CV) この事例においても提督の言動に変化が見られ、艦娘の感情の変化に鈍感になる。 それに関連して艦娘側の想定していない好意の表明を行うといった所謂『日常系ハーレムラノベ』に近い状況が発生している。 また、こうした現象は古鷹型、青葉型、最上型等の重巡洋艦にも見られるが、全く発生しない艦娘(事例1の鳳翔等)も複数確認されており、 全容の解明には更なる研究が必要と思われる(資料5)。 夕焼けに染まる鎮守府の外れ、一人の男がオレンジの海を見て黄昏る。 海風に吹かれながら遠くを眺める彼の背後に人影が一つ。 「来たぜ。“約束”通り」 人影が男の背中に投げかける。 男は振り返り、人影を真正面から睨みつけると、咥えていた煙草を吐き捨て、足で踏み消す。 「おう。待ってたぜ……この“時”をよ」 そう言って男―提督は不敵に笑い、人影―武蔵も応じて笑う。 「んで、本気かい?」 武蔵が問う。 「決まってんだろ?そのために呼んだンだからよ」 提督が答える。 問答のさなか、二人はゆっくりと歩くように距離を近づけていく。 「へえ……随分と“気合”入ってるんだ……なっ!!」 二人の拳が同時に飛び、互いの頬にめり込む。 クロスカウンターの形となったまま、拳がめり込んだ真上の目が互いを捉え、いびつに変形した口角がにやりと歪む。 赤い世界のただ中で、二人が吠える。 事例3 戦艦武蔵(ID YT719462214BB) この事例においては艦娘と提督に同様の変化が見られた。 両者とも実験前より粗暴な言動が目立ち、好戦的な性格となり、また、普段喫煙の習慣のない提督が喫煙する等、生活習慣においても変化がみられる。 こうした変化は主に夕方、特に日没直前において顕著となり、今回のケースでは乱闘にまで発展してしまっている。 これについて提督、武蔵ともに「教室で夕陽を見ていたら殴りあわなければならないような使命感を感じ、そうすることで友情が芽生えるような気がした」と証言している。 同様のケースは他の艦隊での戦艦霧島についても報告されている(第441分遣隊17次報告)が、武蔵、霧島以外には確認されておらず、 今回のケースもそのケース同様、実験以前は提督、艦娘ともに凶暴化の兆候が一切見られない事からこれも教室の効果と思われるが、詳細は不明である。 尚、この乱闘により提督が負傷したが、実験の継続に問題は無いと思われる。 「さて……」 報告書を書き上げて、ふうと一息つく大淀。 「困りましたねぇ……実験中止とは。治療すれば続けられると思ったんですけど…」 彼女の報告書を見た第61研究室の回答は『被験者の心身に重篤な損害を与える恐れあり』として実験を中止するというものだった。 「私も楽しみにしてたんですよ?提督との教室プレイ」 そう言いながら大淀は席から立ち上がり、それまで背を向けていた部屋の中に振り返る。 コンクリート打ちっぱなしの壁と床に、鉄格子の嵌められた窓。 部屋の隅に置かれたこの部屋唯一の家具といえるベッドには提督が仰向けに横たわっている。 「でも、いいです。こうして二人きりの実験が出来るのだから」 大淀は報告書を書いていたPCの方をちらりと見る。時間だ。 「さあ提督。実験の時間ですよ」 そう言ってベッドに近づく大淀。 提督は虚ろな目をしたまま動かない。死んではいないのだが。 「楽にしていてくださいね」 大淀は提督のズボンを下ろすと、むき出しになった一物を自身の手で包み込み、丁寧にこする。 大淀の指が繰り返し刺激することで、一切反応を示さない提督とは対照的に一物はむくむくと大きくなっていく。 「あはっ、提督お元気ですね」 やがて自分の掌で収まりきらなくなったそれを嬉しそうに眺めながら大淀は言う。 「じゃあ始めましょう」 言うなり彼女もスカートをおろし、下着も脱ぐと、露になった下半身でベッドによじ登り、提督の上に立膝で立つ。 その股ぐらは湿って、雌の臭いがしている。 「んっ……」 反りかえった一物の上に跨り、自分の中にそれを入れていく大淀。 大きなそれは、彼女の中をこすりながら進んで行く。 「んっ…、あっ……、入りました」 しっかりと銜え込むと、大淀の両手が提督の腰を掴む。 「くっ…、さあ、行きますよ……あっ、んあっ…!!」 自分の腰を提督に押し付けながら、大淀が声を上げる。 「あんっ……あっ、ああ……っ」 提督の上で腰を振り、その度に嬌声を上げる大淀。 動きが大きくなるに比例して、その声も大きくなっていく。 「あひっ!て、提督っ……!いっ、いい…っ!あんっ!!」 肩で息をしながら一際大きく動き、声を上げる。 そこに普段の冷静で理知的な彼女の姿は無く、ただの雌が一匹。 「あっ、ひっ、ああっ!!あんっ!提督!提督っ!!あっ!あああーっ!!」 大淀の絶叫。 二人の間から提督の白濁が溢れ出る。 ぴたりと動かなくなった大淀は、肩を弾ませながら提督の上で恍惚の表情を浮かべる。 「ああ……中に、提督のが膣内に……いっぱい……あはっ、あははっ…」 虚空を見つめて大淀が呟く。 ふうと息をつくと提督との結合を離し、ベッドから降りたが、その目は自身の白濁でコーティングされた提督の一物に向いている。 「あら、まだ残ってますね」 嬉しそうにそう言うと大淀はベッドの脇、丁度提督の股の間にひざまずく。 「大丈夫。私がきれいにしますね」 そういってぬらぬらと光る一物を咥えると、舌先で丁寧に舐め上げた。 「んっ…、んっ、んっ」 舌がくまなく何度も一物を往復し、くちゅくちゅと湿った音が二人の間に響く。 不意に一物が再度硬直化し、再び白濁が噴き出る。 突然のことに一瞬むせた大淀だったが、一度口を離し、溢れて顔についた分も指でとって舐めると、母乳を求める子牛のごとく、再度一物に顔を突っ込む。 「んっ!ぷはっ!ふふふふ、提督まだ出るなんて……よっぽど気持ちよかったんですね。うふっ、嬉しいです」 二人の間が再度淫らな音を奏でだす。 その様子を天井の監視カメラだけが見ていた。 発 第404特別任務艦隊443分遣隊研究班 軽巡洋艦大淀(ID KTS510466893CL) 宛 第404特別任務艦隊第63研究室主任研究官殿 『鎮守府内執務室内装の提督及び艦娘の行動への影響に関する実験』における没入症状についての経過報告 上記の件につき簡潔に報告する。 先日行われた『鎮守府内執務室内装の提督及び艦娘の行動への影響に関する実験』(以下教室実験)において、実験中の被験者負傷により実験が中断された際、 試験管であった軽巡洋艦大淀(ID YTS731141CL)がこれに強硬に反対。 試験管というロールへの没入が見られ、これが他の艦隊で行われた同様の実験においては見られない特異な現象であったことから、この艦娘のみ資料1の状況下での試験を行うものである。 内容としては、艦娘と提督の生殖活動による艦娘の能力及び人格への影響の調査と艦娘のみに伝えており、艦娘に対し彼女が試験管であると伝えてある。 実験開始から72時間が経過した時点で重度の没入症状がみられ、症状はレベル4まで進行している。 この実験及び教室実験が被験者の置かれている状況と言う意味で所謂スタンフォード監獄実験の再現になりつつあるとの意見もあり、 提督及び艦娘に重大な身体的、精神的障害をきたす恐れがあるため、実験の中止を提案する。 761 名前:名無しの紳士提督[sage] 投稿日:2015/04/26(日) 23 00 02 ID A.Hm0BbU [9/9] 以上スレ汚し失礼しました。 底辺文系出身者が頑張ってレポートっぽく書いてみるテスト 762 名前:名無しの紳士提督[] 投稿日:2015/04/26(日) 23 23 31 ID wQlHx2eE [4/4] GJです! 763 名前:名無しの紳士提督[sage] 投稿日:2015/04/26(日) 23 57 10 ID nKQvwvXE 武蔵ノリ良すぎワロタ 二次元においての眼鏡キャラは基本サイコだからね仕方ないね 乙GJ これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
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清々しい朝。開かれた窓の外に見える鎮守府近海は穏やかで、カモメの声さえ届く。 淹れたてのコーヒーを嗜みながら、僕が青葉が刷ったばかりの朝刊を読んでいると―― 「提督! おはよう!」 ノックも無しに元気良く扉を開いて、我が艦隊の秘書艦娘、最上が現れた。 「おっこれは……う~ん、いい匂い! 提督、何それコーヒー?」 部屋に入って敬礼も早々、最上は鼻をくんくん利かせて、僕のカップを指差す。 「あぁ、そうだ。最上も飲むか」 「えー、いや、まあ……僕はいいや。匂いだけで」 「苦くて嫌いなんだよな?」 「そんなコト無いよぉ。お風呂上りにいつも飲んでるし」 最上は腰に手を当てて、右手をくいっと口元で傾けて見せた。 「コーヒー牛乳だろそれは」 「絶対にコーヒー牛乳のが美味しいもんねー。間宮さんのは絶品なんだよ?」 「いつまでもお子様だと、駆逐艦娘どもにバカにされるぞ」 「なっ、余計なお世話だよ!」 最上は口を尖らせて、べぇっと小さく舌を出した。 正直このお友達感覚……もう少しどうにかならないものかと思ってはいる。 僕は黙ってコーヒーをもう一口。 「……で、それで? 提督、今日はどうするの?」 その一瞬で、最上はもう気持ちを切り替えていた。 これから始まる一日に思いを馳せ、にっと歯を見せて笑う。 この切り替えの早さや、さばけた雰囲気が、僕が彼女を秘書艦娘に指名している理由だ。 「えっと、第4艦隊はまず補給だね。そうしたら、深海棲艦の動きが活発な方面で偵察かな」 作戦の立案補助能力や、部隊への配慮も上々だし、 「この前ドックで衝突しかけちゃってさあ……あそこの角、ミラーがいるよ。まったく」 そそっかしい彼女が時折挟む他愛のない会話も、僕にとっては重要な情報源だった。 ――でも。僕は一つだけ気にしていることがある。 「う~ん、そうだな……」 僕は資料やらを情報やらを最上から手渡されると、いつもあれやこれやと考えを巡らせる。、 当然その間、最上は手持ち無沙汰だ。はじめこそ、まっすぐに立って僕の様子を伺っているが、 しばらくすると癖毛をいじったり、つま先をとんとん鳴らしたり、暇そうにし始める。 「ソファ、座ってていいぞ」 「ん? いや、別にいいや」 「じゃ楽にしてろ。まだかかる」 「イエッサ~」 最上も邪魔する素振りは見せない。自分がこの鎮守府で戦闘に参加する以上、この僕の決定が いかに重要なことか、彼女なりに理解しているのだろう。 そうして最上はいつも決まって窓の方へと向かうと、窓枠に手を突いて外を眺め始める。 開け放たれた窓から吹き込む涼しい朝の風が、栗色の髪をさあっと揺らす。 言動も服装も髪型も、どこか少年らしい最上だったが、こうやって窓の外を眺めている横顔に、 僕は最上の中に確実に存在する『少女』を意識せずにはいられない。 きっと結ばれた口元や長いまつ毛、キュロットからすっと伸びる健康そうな脚。 窓の外のに広がる果てない海を見つめるくりっとした瞳も、艦娘らしい不思議な憂いを湛えている。 ――でもね? ぐい、ぐいぐいっ。 しばらくすると最上は、決まって爪先立ちになって、窓の縁に押し付け始めるんです。 えぇ、その、キュロットの。はい。正面の。 ……股の辺りを。 最上は、別にそれをしているからと言ってヘンな声を出したりするわけじゃない。 表情一つ変わらない。ただ一心に窓の外へと気持ちを傾けているはずだ。なのに―― ぎゅっ。ぎゅ。 最上は質素な窓の木枠に対し、股の辺りで全体重を預けている。 キュロットに隠された小さなお尻が時折、何かを探るように左右に揺れる。 ――絶対無意識なんだよな、アレ。 僕は別にそれに対して邪心を抱いたりしない。まだ子供の、少女になりかけの艦娘がひとり、 何だか良く分からないうちに何だかイイキモチー? になっているだけなわけで。 僕は結局今日も注意することも出来ないまま作戦をまとめると、ふうっとため息をついた。 それが僕の合図だ。 最上は待ってましたとばかりにこちらをくるっと振り向き、とととっと笑顔で僕の方に 近づいてきて、執務机の角に勢い良く両手を突き―― あろうことかですよ、はい。そうなんです。 ぎゅーっ。 そのままの勢いで、執務机の角っこに、ぎゅぎゅぎゅ~っと押し付けるんです。 ええ、キュロットの。はい。正面の。 ……オンナノコの、大事な辺りを。 「提督ッ、決まった?」 そしてそのまま、押し付けた股間を支点にして、やじろべえみたいにバランスを取って 僕に身を乗り出してくるんです。 「あ、あぁ……。だいたい最上が考えてくれた通りだ、まずは――」 聞く体勢はどうあれ、最上は真面目に僕の話に耳を傾ける。指示を二度聞き返すこともない。 最上はしっかり、秘書艦娘としての責務を果たしているのだ。 股間をぐりぐりと机の角っこに押し付けて、小さくお尻を揺らしながら。 「それじゃ提督、僕は先に作戦室で準備してるから。5分後に集合だよ?」 一通りの説明を聞くと、最上は資料を脇に挟んで足早にドアへと向かう。 そしてくるっとコマのようにこちらを振り向き、小さくウィンクして敬礼した。 「今日も僕、頑張るからね! 提督も頑張ろっ?」 ドアが閉じられて、残されたのは僕一人。 最上は部屋に長居するわけでもなく、僕に特別懐いているでもなく……。 ちょうど良い距離感を保って、僕と最上は互いの任務を果たしていると思う。 僕は冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がり、さっきまで最上が身を預けていた執務机の角を撫でた。 まだ、ぬくもりが残っているような気がして、小さな罪悪感と虚しさ感じたが、それもそこまでだ。 ――そのうち、やらなくなるだろな。 僕はちょっとだけ笑うと帽子を被り直し、最上たちの待つ作戦室へと向かった。 =============== ~鎮守府 ヒトフタゴーマル~ 昼食を終え、青空の中天から、陽がまっすぐに降り注ぐ時間。 誰かが聞いているのだろう。古く歪んだクラシックのレコードが、穏やかな潮風に乗って聞こえてくる。 戦時、それも軍施設の中とは思えない、ゆったりまったりした鎮守府の昼下がり。 その柔らかな空気は、提督の執務室も例外ではない。 夏が過ぎ、真昼でも過ごしやすいこの季節だ。扇風機もエアコンも、とうにお役御免。 執務机の灰皿から立ち上る紫煙も、天女の羽衣のようにすぅっ……と天井へと消えていく。 誰にも邪魔されることの無い、何にも変えがたい至福の時間だが―― バーン! 何の遠慮も無しに、木製のドアが豪快な音を立てて開け放たれた。 「提督ー! 起床おぉーッ!」 暢気な空気をブチ破る、秘書艦娘・最上の大声が部屋中に響き渡る。しかし、 「んっがー んっごー」 提督は帽子で顔を隠し、机に脚を投げ出して高いびきだ。 「起床ー! 起床きしょうキッショー! ぱっぱらっぱらっぱらっぱぱっぱらー♪」 だが最上も負けていない。両手でメガホンを作り、起床ラッパの口真似をしながら提督の すぐ耳元で騒ぎ散らす。 「はがぁ~……許せ、あとゴフン……」 ようやく気づいたのだろうが、帽子の下から聞こえる声は夢うつつだ。 「何ノンキな事言ってるんだい提督! あと10分でヒトサンマルマルだぞ!?」 「ほわあぁぁ~……むにむに……」 「今日はこの後、お偉いさん達が会議に来るって言ってたじゃないか!」 「ん~? あと10分……あるんらろ……? いいじゃん……ぐぅ……」 「駄ぁ目っ!」 最上は提督の顔を覆っていた帽子をかっぱらうと、自分の頭の上にひょいと載せた。 白昼の眩しさに晒され、提督の眉間がぎゅーっと寄せられる。しかしそれでも起きない。 「ったくー、いーっつもこれなんだから……」 文句を垂れながらも、最上は少しだけ微笑む。 そして、食堂から持ってきていたキンキンに冷えたお絞りを提督の顔の上に広げた。 「ほらほら! シャキっとしてよ提督!」 そして乱暴な勢いで、ぐわしぐわしと脂っぽい顔をすっかりふき取ってやる。 「んが……ふわ~あぁ」 ここまでやって、ようやく提督の目覚めは半分。なおも寝ぼけ眼な状態である。 「提督、机から脚下ろして」 「あー」 「こっち向けて」 「んー」 寝ぼけている提督は、秘書艦娘――最上の言いなりだ。 背もたれつきの立派な回転椅子をくるんと半回転させ、ブーツを最上のほうに向ける。 「身支度ぐらい、自分で出来るようになってよ……ったく」 最上は腕をまくると、キュロットのポケットから布きれと靴墨、それからブラシを取り出し、 ブーツをピカピカに磨き上げる。 執務室の壁掛けの時計は、ヒトフタゴーサン。 ――おっ、いいタイムじゃない? 僕。 「はい、立ってー?」 「むー」 「襟正して、ボタン掛けてー?」 「はー」 「タバコいっぷくー?」 「すぱー」 「コーヒーひとくちー?」 「ごくー」 ここでようやく、最上は腕組みをして、目の前にもっそり立っている我らが提督の姿を つま先から頭のてっぺんまで確認する。 「靴よし、服よし、顔……まあよし」 最上はふんっと鼻息を荒くして笑うと、背伸びして提督の頭に帽子を返した。 「よし! 提督、完成! 至急、会議室に出撃されたし!」 「ふわあ~あぁ、ありがと、もがみん……『大将』……」 あくびまじりの提督は最上の顔を半開きの目でちらっと見て、気の抜けた敬礼をする。 「『大将』って何さ。僕は重巡洋艦、も・が・み、だよ!」 意味の分からない二つ名をつけられ、最上はぶすっとしながら敬礼を返す。 「ちゃんと名前を呼んでよね。僕まで笑われるだろ?」 「はいはい……んじゃ、後よろしくな……」 おぼつかない足取りで廊下を歩いていく提督の後姿に向かって、最上は火打石を振るう。 「提督、ちゃんと話し合ってよね? 途中で寝たりしたら、僕怒っちゃうぞ?」 提督はふらふらしながら背中越しに右手を振ると、階段の方へと消えていった。 「相っ変わらず世話が焼けるんだから、ホントに……」 自分以外誰もいなくなった執務室前の廊下で、最上はふうっとため息をつく。 そうは言いつつも、最上は提督の秘書という役割が気に入っていた。普段、特に寝起きは あんな感じだが、提督はああ見えて一応は提督になるだけの軍人である。 最上は執務室に戻り、建屋の正面玄関が見える窓から身を乗り出し、下を覗き込む。 ――あ、来た。 見れば、黒塗りの高級車が既に停車しており、そこから数人の将校がぞろぞろと敷地内に 歩いてきたところだった。我らが提督も玄関から現れ、先ほどとは別人のような きりっとした足取りと敬礼でもって迎え入れる。 最上は窓辺に押し付けた股の辺りで身体のバランスを取りながら――そうしているのが 何だか最上は好きなのだ――足をぶらぶらさせ、提督の姿が会議室のある建屋に消えるのを見届けた。 ボォン……。 執務室の柱時計が、ぴったりヒトサンマルマルを告げる。 「ふー……」 この執務室に押しかけて、ここまでたったの10分だ。 しかし、何より大きな仕事をやり遂げたような不思議な充足感が、最上の心を満たす。 自分達のリーダーのいちばん近くで仕事が出来る光栄さもあるし、鎮守府全体と海までを 一望できるこの窓を独り占めできるのも、最上は好きだった。 今頃は、駆逐艦娘で賑やかな第四艦隊が製油所地帯海域の偵察を終え、この穏やかな鎮守府へ 針路を取っている頃だろう。 ――今日も、明日も……平和が続くと良いけどな。 それだと艦娘の自分は仕事が無くなってしまうし、事実、到底無理なお話だ。 しかし、だからこそ最上は思うのだ。 雨でも、風でも、毎日こうしてこの風景を見続けられるなら、 提督や仲間の艦娘たちと一緒に鎮守府で過ごしてける日が続くなら、そして―― ――誰一人欠けることなく、少しでも長く、みんなと過ごせたなら良いな。 コン、コン。 「最上ちゃん、最上ちゃん?」 開け放たれたままの執務室のドアが控え目に叩かれ、最上は背中越しに振り向いた。 ドアの陰で、短めの黒髪をサイドに纏めた艦娘が、小さく手を振っている。 「あっ、長良!」 「司令官、会議行った?」 最上は頷きながら、こちらの様子を伺っていた長良を手招きした。 「大丈夫だって。僕しかいないから。コホン……君、入りたまえ」 長良はくすくす笑いながら、執務室のドアをくぐった。 「ウチの司令官、そんなじゃないし……って……? プッ、ククク……!」 最初は最上の真似事で笑っていたであろう長良が、最上の顔を間近で見るや、今度は 口を押さえて噴き出してしまった。 「ん? 長良、どうかしたの?」 「だって……ハハハ! 最上ちゃんの、その顔! ホントに司令官ごっこするつもり?」 「はあ!? 顔……って」 黒のサイドテールを揺らして笑う長良に指摘され、最上は慌てて窓ガラスに自分の顔を映す。 「あーっ!」 最上の鼻の下には、真っ黒なひげが横一文字に描かれていた。 見れば、両手が靴墨で真っ黒だ。 ――もしかして、さっきの『もがみん大将』って……ぐぬぬぬ! 「んもーっ、提督! 気づいてたなんて! 僕、本気で怒ったかんねー!」 悔しさと恥ずかしさがない交ぜになって、最上はぶんぶん拳を振り回した。 「アハハ。でも最上ちゃん、結構似合ってるよ?」 「あーっ、何? 長良までそんなこと言うの?」 「じょ、冗談だよ、冗談!」 思い切り頬を膨らませた最上に、長良もたじたじ、苦笑いで話題を変える。 「そ、それよりさ。午後、時間は大丈夫?」 「そりゃあ、もっちろんさ!」 提督の顔を拭いたばかりのタオルで自分の顔もごしごし拭きながら、最上がぱあっと 笑顔を見せた。 「走り込みでしょ? 行こう行こう! 第四艦隊が帰ってくる前に!」 「よしきたあ!」 長良はぐっとガッツポーズを見せ、こちらもにっこりと笑う。 「あ、でも長良、その前にさ」 「え?」 「ちょーっと掃除、手伝って」 バツ悪そうに最上が指差すその先には、真っ黒な指紋でべっとり汚れた窓枠があった。 ~鎮守府 営舎前 ヒトサンサンマル~ 「さぁーって、今日もコンディション最高! ひとっ走りいきますかあ!」 長良はぎゅっとハチマキを締めなおすと、手足の関節を入念にほぐしていく。 長良は袖の無い紅白のセーラー服に膝上丈の赤袴、それにニーソックスという、いつも通りの 服装のままだ。しかし艤装を解いたその姿は、艦娘たちの中でも一際陸上で運動するのに 適している服装だといえそうだった。ただ一点違うとすれば、腰の後ろにドラム缶を模した 水筒がくくりつけられているということだった。 「気合が入っているねえ、長良。よーし、僕も負けないよ」 ぐいぐいと腰を捻って体操する最上は、エンジ色のセーラー服の上着だけを脱いで、 白のタンクトップとキュロットという軽い出で立ちだ。長良の走りこみに付き合うときは、 いつもこの格好だった。 「ま、航続距離なら僕に軍配が上がるからね?」 「瞬発力だったら、長良の脚にだって分がありますから!」 準備体操をする二人は笑顔だったが、内心は本気だ。 負けず嫌いの艦娘の目線が、照明弾を思わせるほどの火花を散らす。 「がんばれー ふたりともー」 「お昼ごはんのすぐ後だってのに、よくやるよねー」 営舎で休んでいる非番の艦娘たちも、二人の走りには興味しんしんだ。 いつの間にやら、営舎の窓には見慣れた顔が幾つも並んでいた。 計らずも観客を背負った最上は、自分の中のエンジンがごうんと力強く動いたのを感じた。 横に並んだ長良も同じのようだ。その場で小さくぴょんぴょんと跳ねるたび、表情が リラックスという名の深い集中に満ち溢れていく。 「ふたりともー いいー?」 待ち切れなさそうな営舎の二階からの声に、最上と長良は手を振って―― 「よーい どん!」 背中から聞こえたスタートの合図と同時に、二人は秋の爽やかな風となって走り始めた。 「おっ先にぃ!」 先手を打ったのは長良だ。滑るように加速していく背中を見て、最上はにやりとする。 ――どうやらコンディション最高っていうのは、嘘じゃないみたいだね。 こうやって長良と走るようになったのはいつからだろうか。もう良く覚えてはいないが、 最上は長良と何かとウマがあった。提督が居ないときなどは食事を一緒にとることも多いし、 他の艦娘に比べてオンナノコオンナノコしていないところが、最上には何だか安心だった。 それに何より、長良の快活で裏表の無い性格や、朝昼晩と欠かさず走り込みを続ける実直さと 体力を、最上は尊敬していた。 作戦中の素早い動きや、波間を縫って深海棲艦に肉薄する姿は、持ち前の勇敢さと日ごろの 鍛錬による自信の賜物に違いない。 ――僕が提督だったら、長良を秘書にしたいなあ。 そんな事を思いながら、最上も腕を振る力を強め、長良の背中に追いすがり……そして並ぶ。 「いきなりそんなに飛ばして……。大丈夫なのかい?」 「最上ちゃんこそ、長柄の脚に着いてこれる?」 鎮守府の外周を大きく回るランニングコースにも、秋が来ているようだった。夏は吸い込む だけで火傷しそうに暑かった空気も、軽口を叩きながらでも走れるくらいに快適だ。 快晴の空に見上げる太陽も、汗ばむ肌に心地良いぐらいである。 「すっかり良い季節だねえ」 「本当に! コンディションも良いわけだわ~」 ランニング日和というよりも行楽日和という方がしっくりくる、柔らかな昼下がりのせいだろう。 工廠の裏を抜け、鎮守府の港近くの小さな砂浜へと到達する頃には、ふたりのボルテージは すっかり下がっていた。 「それで酷いんだよ、提督ってば。僕の顔見て『もがみん大将』なんて!」 「アハハ。今度寝てるときに、逆襲してみたらいいんじゃない?」 「あっ、いいねえ、それ! いまに見てろよ~、提督~!」 そんなお喋りが弾む、楽しいジョギングになってしまっている。 「それにしても、長良はスタイルがいいよねえ」 併走する長良のしゃきっとした姿勢を見て、最上は思ったことをそのまま口にした。 「そ、そんなことないよ。ふつうだよ」 照れながらも、長良は少し嬉しそうだ。 「謙遜しなくていいって。ランニング以外にも何かしてる?」 「うん、簡単な筋トレかな。でも、やっぱり走り込みが楽しいんだけどね」 ほうほうと、最上は長良の四肢をまじまじと観察する。軽く日焼けした肌の下で、 長良の細いフレームを包むしなやかな筋肉が躍動しているのが良く分かる。 「やだ最上ちゃん、なんだかオジサンぽいよ? 視線が」 気づいた長良が、最上の肩を冗談ぽく肘で小突いた。 「でも良いことばかりじゃないよ。長良、また脚に筋肉ついてきちゃったみたいで」 「いいじゃない、筋肉! 海兵隊みたいなモリモリマッチョマンは困るけど」 「よ、良くないよぉ~」 長良は風に流れる黒髪に滴る汗を掻き分け、はぁっと意味ありげなため息を突いた。 「あんまり鍛えすぎるとボトムヘビーになって航行しづらいし、それに……」 「それに?」 「えぇっと、その……」 珍しかった。いつも歯切れの良い長良が、言葉に詰まって頬をぽりぽりと掻いている。 「どうしたの? 顔、赤いけど」 「そっその、最上ちゃん、あの……これは長良との秘密だよ? 内緒にしてくれる?」 最上は一瞬ぎょっとした。あの長良が、自分に内緒話をしてくるとは思いも寄らなかった。 よっぽど言いづらいことが、この長柄のボディーに隠されているとでも言うのだろうか。 ――うーん、約束事は慎重にすべきだけど…… 「良いよ。黙ってるから」 長良の均整取れた肉体の秘密が分かるかもしれない……という好奇心にあっさり負けて、 最上は二つ返事で小指を立ててみせた。 視線を泳がせていた長良だったが、最上としっかり指切りをして、ようやくこそこそ声で話す。 『その、あの……結構さ。筋肉って、重くてね。長良、最近体重がさ……』 「えーっ、たいじゅう?! なー……」 「やだ――! 最上ちゃん、声おっきいってばぁ――!」 なーんだ、そんなことかあ、という言葉が放たれるよりも早く、長柄の人差し指が最上の唇を ぎゅーっと押さえ込んだ。 『ヒミツだって、言ったばっかりでしょーっ?!』 殆ど口パクで叫ぶと、長良はおでこが当たりそうなくらいに最上に詰め寄った。 体重。その言葉一言だけで、この反応だ。 その先まで口走っていたら、一体今頃どうなっていただろう? ――あ、危なかったなぁー、僕。 作戦中に等しいぐらいに鬼気迫る長良に気圧され、最上の足は、ぴったり止まっていた。 「ご、ごめんごめん。僕が悪かったよ」 両手を合わせてぺこぺこ、最上が平謝りに謝ると、長良は「もうっ」とむくれて、どかっと 砂浜に腰を下ろした。ふたりは、丁度ランニングの半分を終えようというところまで来ていた。 「最上ちゃん、デリカシー無いんだから……」 「で、デリカシー……かい?」 普段殆ど耳にも口にもしない言葉が、しかも長良の口から飛び出して、横に座る最上はたじろいだ。 「そうだよお。最上ちゃん、全然気にしないの?」 「う、うーん……そういえば僕、もうずっと体重計には乗っていないね」 「はぁ~? お幸せですこと!」 呆れた表情の長良は、腰から水筒を外して飲むと、最上の頬にぴたっとくっつける。 「ひゃっ! ありがと!」 水筒を傾けると、キンと冷えた甘露が溢れ出し、レモンの香りと共に最上の喉を潤していく。 「ふーっ、生き返るぅ。長良のハチミツレモンは、本当に美味しいね!」 「間宮さん直伝だからね」 ひとくちふたくち味わって、もう一口飲んで、ようやく水筒を返す。 「でも何だろ、今日はいつもよりハチミツが薄目?」 「はぁ……ホントに最上ちゃん、何も気にしてないんだから……」 長柄のジトっとした非難めいた視線が、最上の身体の色んなところを突き刺す。 「長良ね、実は前から気になってたんだけど」 「え、僕?」 「そう、その……」 小さなためらいの後、長良は照れくさそうな早口で呟いた。 「最上ちゃん、いつもノーブラなの?」 「ノーブラ……ああ、うん。そうさ?」 長良の茶色い瞳が向かう先に気づいて、最上は事も無げに答えた。 タンクトップの襟元をぱたぱたしながら、そういえば……と思い出す。 「僕、ブラジャーって着けたことないなー」 「えぇっ、そうなの? 一回も?」 「一回も。だって持ってないし」 「まさか、一枚も?」 「一枚も」 ざぁ……んと、静かに寄せては返す波の音だけが、二人の間をすり抜けた。 長良はまるでその音を隠れ蓑にするかのように、座ったまま、そおっと少しだけ背伸びする。 そして、最上のはだけた襟元に視線を落とし―― 「あ、そ、そっか……そうなんだ。は、ハハハ……すみません」 ぎこちなく笑いながら、もじもじと膝を抱えて小さな三角座りになった。 「なんだい? 長良ってば、変なの!」 「だ、だから……すみません、ってば……」 「それじゃあ、そういう長良はブラジャーしてるっていうのかい?」 最上がたずねると、長良はもじもじしながら鎖骨の辺りをさすってみせる。 「長良は、してるよ? スポブラだけど」 「すぽ……ぶら?」 まったく聞いたことの無い単語だったが、心当たりにポンと最上が手を打つ。 「ああ、飛行機についてるアレ?」 「最上ちゃん、それスポイラー」 「違うの?」 「違う! ぜんっぜん違う!」 長良は「艦娘にスポイラー要らないでしょうが!」と不満そうに最上に詰め寄ると、 きょろきょろと周囲を伺い、意を決したようにセーラー服の襟元を引き下げ、中を広げて見せた。 「スポブラ! スポーツブラジャーのこと!」 最上は、長良の制服の暗がりの中に目を凝らす。石鹸とレモンの混じった香りの向こうに、 長良の胸をぴったりと覆っている桃色の下着が見えた。 「こ、これがスポブラだよ。分かったでしょっ!」 これ以上たまらないという感じで、長良はまたすぐに膝を抱えてしまった。 「ええっと……」 最上は思い出しながら、自分の胸の辺りでスカスカと手を動かし、ジェスチャーする。 「こう……肩紐とカップじゃなくて、何だろ。僕のよりもピッタリした、胸だけ覆った タンクトップ、みたいな……?」 「そう、そう!」 「そんなピタピタで、息苦しくないの?」 「ぜんっぜん! むしろ長良は動きやすいよ」 「ふーん?」 ――ホントかなあ? 生返事しつつ、最上はどうもピンとこなかった。 ――動きやすいって、胸が揺れないってことだよね? 一応ブラジャーだし。 今は外洋の任務にあたって鎮守府を離れている戦艦や、正規空母達なら話も分かる。 中にはドックの風呂に浮くような胸の持ち主さえいるのだ。あれを野放しにしておいたら、 両胸に水風船をぶら下げて動き回るような感覚になるのだろう。ブラジャーの必要性も頷ける。 しかし、長良の胸元はお世辞にも―― 「いやぁ、分かるよ? でもさ……っと、おおっと」 最上は慌てて自分の口を両手で押さえ、またしても飛び出しそうになった言葉を飲み込んだ。 「で、デリカシーデリカシー」 「も~が~み~ちゃ~ん~?」 急に周囲が暗くなり、最上ははっと頭上を仰ぎ――腰を抜かした。 そこには、歯をぎりぎり鳴らしながら涙目で最上を見下ろす、長柄の姿があった。 日輪を背負うその姿は、まさに護国の戦姫……いや大魔神である。 「わあっ、ななな、何だよ長良! 僕は何も言っていないだろッ!?」 「目は口ほどにモノを言うって言葉、知ってるよね……?」 長良の両手が、猛禽の爪のごとくワシワシと蠢いた。 今ならリンゴだろうと弾丸だろうと、豆腐のように握りつぶしそうだ。 「もう二度とブラなんかいらないように、長良が近代化改修してあげよっか……?」 その手が向かう先を察し、最上の背筋を冷たい汗が滴り落ちる。 「やっ、やめてよ長良! 早まるなって! きっとまだまだ大きくなるさ! ホントだよ!」 ブチィンと、長柄のハチマキが音を立てて千切れた。 「うううううるさーい! もう遅い遅い遅いッ! そんな言い訳、ぜんっぜん遅――」 パッパラッパラッパラッパパッパラー! 長良が最上に飛び掛らんとしようとした、まさにその時。 秋晴れの鎮守府に、スピーカーを通して乾いたラッパの音が轟いた。 その瞬間だった。 ばし、ばしばしばしいいいっ! 背中に、赤く鋭い雷のような衝動がほとばしり、最上は思わず「ひうっ」と声を上げた。 尻餅をついたままの最上をよそに、長良もその場に慄然と立ち尽くし、鎮守府の高台にある スピーカーを食い入るように見つめている。 ラッパの音がこだまするたびに、最上の頭の中で、胸の奥で、幾つものギアが次々と 噛み合い、海原を切り裂く鋼鉄の塊が動き出す轟音が迫る。きっと長良も同じだろう。 「「非常呼集……!」」 ランニングも。 ハチミツレモンも。 デリカシーも。 ブラジャーも。 そして、ふたりのわだかまりさえも。 艦娘たちのひとときの『非日常』は、ラッパの音がもたらす『日常』によって、既に遠く、 遥か夢の向こうへと追いやられていた。 そしてその代わりに、自分の中の『軍艦』が姿を現し、全身に熱い血を送り込んでゆく。 これが自分の本性なのかどうなのか、最上には分からない。 しかし、最上は感じるのだ。 ビーズを蒔いたようにきらめく水平線の彼方に迫る、倒すべき存在の陰、深海棲艦の姿を。 最上は長良に差し伸べられた手を取って立ち上がり、お互い目配せで「うん」と頷くと、 ここまで走ったときの何倍もの猛ダッシュで、営舎への道を引き返した。 背中を押し、大地を蹴る足を動かす、内なる衝動が命じるままに。 そう、心震わせる、あの『抜錨』の瞬間を求めて――。 =えんど=